自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

幼い子どものために「働くべきか、しばらく家で子どもをみるべきか」を悩むとき

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 保育園や幼稚園に入園する前の子どもがいて、出産に伴っていったん仕事を辞めておられるお母さんでしたら、早々に仕事を探して復帰するか、3歳ぐらいまでは家で見た方がいいのかなとか悩まれる方もいます。

 正規社員の人をみて、育児休業が開けてバリバリやっているのがうらやましくもあり、ダンナは外で羽を伸ばしている(一応、仕事ですが)のが腹立たしくもあり、でも、子どもと一日中ずっと一緒にいられるのは、今しかないのかなという気持ちもあり、などなど。

 収入の切迫感もありますので、結局はそれが決断の決め手になる場合が多い面もあります。

 ここでは、そうした悩みについて、「親の自己実現」と「子どもの幸せ」について見ていきます。

親の自己実現と子どもの幸せ

1 自分の気持ちで決めてよい

親が仕事に限らず、自己実現を通じて活き活きと人生を送っていることが、子どもの精神的な安定に重要な要素であるということ、これは間違いないのではないでしょうか。

『こんな働く母親が、子供を伸ばす!』(扶桑社)の著者の松永暢史氏は、日本の専業主婦の家事・育児労働を仕事に置き換えて給料換算してみると、年収約700万円にもなると紹介しています。

しかし、実際に給料は支払われず、休みもありません。それにもかかわらず、周囲に相談や気軽に助けを求めることができる相手がいない、さらに子育て情報のはんらんで、何を信じていいのかわからない、そのような状況におかれた母親が、唯一助けを求めた夫に愚痴をこぼすと、残業帰り(あるいは飲み帰り?)の夫は疲れてろくに話も聞いてくれない。

それでは、息が詰まって、子育てに対する負担や不安、孤立感ばかりになります。

「子育てハッピーアドバイス」シリーズ(一万年堂出版)で著名な明橋大二氏は、「お母さんが働くことは、子どもにとって、プラス? マイナス?」と題してこう述べています。

結論はこうです

外野席の声には惑わされず、自分の気持ちで決めていいのです

「自分は、二つのことを同時にするのは苦手だから、子どもが小さいうちは、育児に専念しよう。経済的には苦しいけれど、そのほうが、自分もゆったり育児ができるわ」と思う人は、育児に専念すればよい。

「自分は、仕事をやめて、家に入ると、よけいにストレスがたまるに決まっているから、子どもを保育園に預けて、仕事をしよう。そのほうが、自分も子どもに優しくなれる」と思う人は、仕事をすればいいのです。

(『子育てハッピーアドバイス』1万年堂出版)

2 まず、おとなが幸せになる

次の言葉は『川崎市子どもの権利に関する条例』の施行を前に、平成13(2001)年3月に行われた報告市民集会で子ども委員会の代表から紹介された、「子どもたちからおとなへのメッセージ」です。

まず、おとなが幸せにいてください。おとなが幸せじゃないのに、子どもだけ幸せにはなれません。おとなが幸せでないと、子どもに虐待とか体罰とかが起きます。  条例に『子どもは愛情と理解をもって育まれる』とありますが、まず、家庭や学校、地域のなかで、おとなが幸せでいてほしいのです。子どもはそういうなかで、安心して生きることができます。

(『川崎市子どもの権利に関する条例 ―各条文の理解のために―』川崎市川崎市教育委員会

 「『子どもに権利なんて、甘やかすだけだ』というおとなの批判に対して、子どもの権利とは何かを一生懸命考えてきた子どもたちからの答えでした」と綴られています。

 ここまでお読みいただきありがとうございました(*^^*)

何かあってからでは遅い!自治体の大事な仕事、認可保育園等への指導について(その2)

 以下の記事に続いて、保育の質の担保についてみていきます。kobe-kosodate.hatenablog.com

 

1.「公共性」と「園の個性」

 私が園と保護者の間に入ると、「白黒はっきりするミスならば頭も下げるし改善を行っていくのは当然だが、教育・保育の内容にまで口を出すな」「行政の不当な介入だ」とのご意見を、特に自主性や自治を重んじる園からいただくことがありました。

 ただ、「運営基準」で示されている内容は、園の自主性や主体性を阻害する・しない以前の話ばかりです。

 特色ある教育・保育は大切であり、まったく否定するものではありません。

 しかし、それは「公共性の土台」にたった上でのことと考えています。

 私が「行政の指導」と「園の特色・個性」が相反しないことを強調するのも、園が思っておられる以上に相談・苦情を申し出にくいと保護者が感じている園がままあるからです。

 多忙な業務で時間のとれない先生方の言い分もおありでしょうが、「送り迎えの際も十分に先生とコミュニケーションがとれない」、何か気になることがあっても「子どもを人質にとられているようなもの」と、悩む保護者は口をそろえます。

2.「子どもを人質にとられているようなもの」

 たとえば、「先生の話を聞かないからと、うちの子どもが部屋の外で立たされた。そういうことって他の園でもあるのでしょうか」とうちあけられたお母さん。

 こんな相談が1件や2件ではないのです。

 昔ならいざ知らず、現在は小・中学校でもしていないことであり、明らかに体罰です。

 ましてや小学校入学前の子どもですからそのまま泣いておもらししてしまったという事例など、子どもの人格をはずかしめていることにほかなりません。

幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものである。(教育基本法

また、

体罰や言葉の暴力はもちろん、日常の保育の中で、子どもに身体的、精神的苦痛を与え、その人格を辱めることが決してないよう、子どもの人格を尊重して保育を行わなければなりません。(厚生労働省保育所保育指針解説書』)

とあるとおりです。

3.苦しい目をさせることは、しつけの一環か

 「子どもには話すだけではわからない。少しくらい苦しい目をさせないとわからない」「私の園ではしつけの一環だ」と認識しておられるとすれば、なおのこと問題であると考えています。

 「日本には体罰を、しつけ、教育の手段として容認する風土がある」と警告し、「子育てハッピーアドバイス」シリーズで著名な明橋大二氏はつぎのように述べています。

体罰は、なぜいけないのでしょうか。

まず、体罰の根本にある考え方は、「間違っている人には、たたいてでも知らせなければならない」ということです。そのように育てられた子どもは、また、友達が間違っていたら、その子をたたいてもいいんだ、と思います。大人から見て非はないときでも、子どもが、相手が間違っていると思ったら、たたきに行きます。その結果、手を出すことが多くなります。(略)「暴力はいけません」と教えていながら、暴力で争いを解決する方法を教えているのと結果は同じことになるのです。

また、体罰の根本にある考え方のもう一つは、「口で言ってわからない者には、体で教えるしかない」ということです。

そのように子どもを育てます。そのうちに、私たちは、年を取り、体の自由がきかなくなり、頭の働きも鈍ります。食事や排泄も、思うようにできなくなります。子どもに言われてもなかなかそのとおりにできません。つまり、赤ちゃんと同じ状態に返っていくのです。

そのとき、体罰を受けて育った子どもは、親に体罰を加えます。「口で言ってわからない者には、体で教えるしかない」からです。

児童虐待」と「老人虐待」は、実は、根っこは同じところにあるのです。

(『忙しいパパのための子育てハッピーアドバイス』1万年堂出版)

 そのような体罰まがいのことをしなくてもクラス運営を行うだけの力量が先生方にあるか、また、そもそも園に、クラス編成や先生の配置などで問題がないのかが問われています。

 役所は、園の自主性・主体性以前の問題であるこのような課題がまだ一部の現場に残されていることを認識し、保護者からの相談・苦情にしっかりと耳を傾け、園と調整していかなければなりません。

 実際に園の側としても、よりよい運営をしていこうと尽力しておられる園長先生なら、そのようなクラス運営の現状や保護者の悩みが仮にあるのであれば、黙っておられるよりむしろ保護者からでも役所を通してでも、相談しにきてほしいと願っておられるものなのです。

4.園の自主点検や第三者評価の取り組み

 もちろん、良識ある園ならば、園長先生や副園長・主任先生の陣頭指揮のもと、日々改善に取り組んでおられます。

 まず、保育所においては、社会福祉サービスの提供者として、苦情解決の取り組みに努めることが定められています。

 具体的には、苦情相談窓口・担当者を公表し、相談しやすい環境を整備するほか、法人の監事や地域の民生委員など、第三者委員をあらかじめ選任し、第三者を交えての苦情対応に努めています。

 そのほか、保育所保育指針に書かれているとおり、提供する保育内容について、職員が自己の取り組みを「振り返り」、職員同士で議論しながら改善していくなど、職員や園としての自己評価の取り組みもしておられることに加えて、他機関に第三者評価をお願いし、第三者の目から保育内容等を評価・点検する取り組みをしておられる園もあります。  

 また、幼稚園も、『学校教育法』などの定めにより、職員や園の自己評価やその公表、評価結果の設置者への報告を行うなどとされているとおり、各園で苦情解決のマニュアルなどを整備したりしながら、日々心のこもった対応に努めておられます。

 それらを実際に適正に対応いただいている園については、やはり市役所や区役所への苦情も概して少ないといえるのかもしれないと感じています。

 

 ここまでお読みいただきありがとうございました(*^^*)

何かあってからでは遅い!自治体の大事な仕事、認可保育園等への指導について

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 平成29(2017)年、兵庫県姫路市認定こども園における不適正な保育による認定取り消しが、新制度後初の認定こども園の認定取り消し事例となりました。

 今年の夏にはその裁判についてニュースになっていました。

「わんずまざー」元園長、再び有罪 給付金詐取で大阪高裁判決

極端に少ない給食などが問題になった姫路市の私立「わんずまざー保育園」(廃園)で、同市から給付費を詐取したとして詐欺罪に問われた元園長の女(49)の控訴審判決が25日、大阪高裁であった。長井秀典裁判長は、懲役2年6月、執行猶予4年とした一審神戸地裁姫路支部の判決を支持し、同被告の控訴を棄却した。

(中略)

同園は17年2月、兵庫県姫路市の監査により、極端に少ない給食や保育士数の水増しが発覚。全国で初めてこども園の認定が取り消され、廃園になった。女は19年1月に詐欺容疑で兵庫県警に逮捕され、翌20年12月に神戸地裁姫路支部で有罪判決を受けたが、控訴していた。

出典元:神戸新聞NEXT 2021/08/25 12:00

 「認定こども園を増やしたからだ」という批判もありますが、この園は、認定こども園だったからこんなことをしたのでしょうか。

 そんなことはありません。一方で保育所の運営費制度から連綿と続く給付費の考え方(「子どもの最低基準を守る給付費なんですよ!」)をよく指導していなかったのではないかと思わざるを得ません。

 施設を整備するのは、将来的に認可することを前提としてのことですから、整備の時点から事前に協議を重ねてせっかく建てた園を「認可しない」のはなかなか無いことです。

 しかし、いったん認可して開園を認めると、その保育内容が継続的に確保されているか、役所は厳しく見守る責務がでてきます。

 それは役所が園を信用していないという意味ではなく、役所として調査権が与えられ、認可・確認の取り消しも行い得るという非常に重い権限が与えられているからです。

 この記事では、役所が園に行う園への「指導監督」について見ていきます。

1.「指導」という仕事

 例えば、食品会社の従業員の方が、実は自分の作っている食品は健康的には疑問符が付くから自分では食べないんだということがあれば悲しいことです。

 しかし、同じように役所の担当者として園を認可しながら、ここの園には自分の子は預けたくないというのはあってはならないことです。

 一方、現実に保育内容がそれぞれ異なるなかで、個別の園の文化と一言で片付けてよいものか悩ましい事例を耳にすることも、市民に近しい窓口ではあり得る話です。

 園は、どの園長先生もより良い教育や保育を行っていこうと日々尽力されていることは痛いほど理解しているつもりですが、役所としても、税金をお渡しして運営いただく以上、制度的にも質の担保を確認しなければなりません。

 新制度の園はそれぞれ設置してよいという「認可」を受け、新制度の給付を受けてもよいという「確認」を受けています。

(認可・確認については以下の記事も参照ください。)

kobe-kosodate.hatenablog.com

 ということは、認可や確認をした役所は、その認可状態が守られているのか、確認したように現在も適切に運営が行われているのか、必要に応じて園に報告や帳簿書類の提出を求めたり、立ち入り検査ができるようになっています。  

 また、それは帳簿上のミスや保育中の事故などに関する話にとどまりません。

 日々の保育で虐待や子どもの心に傷を残すようなことがなされていないか、保護者の苦情に真摯に対応して解決に向けた取り組みを行っているか、衛生面は大丈夫か、感染症対策は万全か、給食を提供している園ならば、その調理からその献立まで適切かなど指導する内容は多岐にわたります。

 「指導」は役所にとって非常に重要な業務になります。  

2.保育所への指導監査

 児童福祉施設である保育所に対しては、役所が厚生労働省の定めにしたがい、年1回以上の実地監査を行います。

 内容は多岐にわたりますが、大きく2点です。

(1)入所児童への支援が適正かということ、(2)園の運営は適正かということ、を監査します。

(1)入所児童への支援

保育所保育指針を踏まえた適切な保育

②健康診断の実施や記録 

乳幼児突然死症候群(SIDS)の防止など事故防止対策

④給食材料の用意・保管

⑤給食日誌の記録

⑥三歳未満児の献立・調理・食事環境の配慮

⑦食中毒対策

⑧家庭での不適切な養育状況の発見・関係機関との連携 などです。

(2)園の運営

①予算・会計経理

②職員の処遇(手当の規定、労使協定など)

③職員確保・定着化の取り組み

④防災対策 などです。

3.幼稚園の運営

 一方、幼稚園は、私学振興助成金の監査を公認会計士等から受けることが定められていること、また、著しい不適正な運営の場合には、都道府県等による改善命令の定めがありますが、基本的には自主的な運営にゆだねられています。

 この保育所と幼稚園の指導監査における大きな違いは、どこからくるのでしょうか。

 それは、保育所と幼稚園の「あり方」の違いから生じるものです。

 保育所は、役所が責務とする保育の委託を受けているという「あり方」から、制度として、園を建設する初期投資(イニシャルコスト)の段階から税金で補助を受けることが可能であり、経常的な費用(ランニングコスト)も税金で一定保障されています。

 一方、私立学校である私立幼稚園は、学校として「公の性質」(教育基本法)があることを前提としながら、初期投資は設置者の負担が基本であることから、創設者の建学の精神により私財をなげうって園を建設されているほか、経常的な費用も、役所から私学振興に関する助成金として税金が投入されているものの、制度の基本としては設置者負担を原則としているからです。

4.子ども・子育て支援新制度が始まって

 しかし、平成27年度からの新制度の実施により、新制度の園は、経常的な費用について国が算定し、保護者からの「利用者負担額」を差し引いた残りは、「給付費」として税金が投入されることが法律で定められました。

 これにより、新制度に移行した園であれば、保育所も幼稚園も認定こども園、地域型保育事業所もすべて、役所が給付を受けるに適切な教育・保育を行い運営をしているか調査する権限をもつこととなりました。(引き続き私学助成制度のもとにある幼稚園は除きます。)

 役所は、子どもたちの安心な保育環境を保障するために、それぞれの施設類型のあり方を尊重しながらも、「運営基準」にのっとりこれまで以上にきめ細かな指導監査を行っていく必要があります。

(「運営基準」については、以下の記事で紹介しています。)

kobe-kosodate.hatenablog.com

 最後までご覧いただきありがとうございました(*^^*)

 

 続きは以下の記事に続きます。

kobe-kosodate.hatenablog.com

 


幼保一元化をどうみるか

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 国が検討中の「こども庁」創設に向けた検討で、文部科学省が幼稚園所管を固辞しているために幼保一元化は先送りの見込みだと報道されています。

こども庁、政策の「一元化」遠ざかる 文科省からの移管見送りへ
子ども関連政策を中心に担う「こども庁」の新設について、厚生労働省内閣府の関係部署を統合する案を軸に政府が検討していることが分かった。義務教育は文部科学省に残すため、子ども政策の一元化からは遠ざかる。政府は年末までに組織のあり方の基本方針を取りまとめる予定だ。
出典元:朝日新聞デジタル 2021年11月8日18時20分

 幼保一元化について、どう考えればよいのでしょうか。
 これまでの幼稚園・保育所制度の一本化については、以下の記事にまとめています。
kobe-kosodate.hatenablog.com
 ここでは、これまでの取り組みを踏まえて、改めて幼保一元化について見ていきます。

1.幼保一元化の目的(何を一本化するために一元化するのか)

 まず、見ていくことは、何を一本化するための一元化なのかということです。
 幼・保の事務に携わってきた中で、窓口やお電話でお聞きしてきた意見としては、

  • 質の高い教育・保育水準の確保「園の種類に関係なく、質の高い教育・保育水準をしっかり確保してほしい」
  • 最低限の質の確保「子どもが園から泣いて帰ってきたときに、たらいまわしにされずに保護者が相談できるきちんとした指導部署が一元化されてほしい」

 また、園の設置者・園長の皆さんからの意見としては、

  • 運営や設置に要する費用の公的補助や支援のレベルを合わせてほしい(幼稚園より保育所のほうが一般に補助が充実しているのではないか)

 といったものでしょうか。
 以下、これらが今どのような状況なのか、また、それがバラバラであるならば、何が原因でそうなっているのか見ていきます。
 なお、以上の意見のほかに

  • 入園手続きの一本化「入ることができる園が見つかるまで保護者が園を駆けずり回るようなことがない入園制度にしてほしい」

 という意見もいただきますが、これは、改めて別のところで見ていきたいと思います。

2.質の高い教育・保育水準の確保、最低限の質の確保

(1)教育内容の質の確保に向けた現状

 例えば、小学校や中学校ですと、それぞれの「学習指導要領」に基づいて教育が行われ、それが確実に各学校で行われるよう、公立学校であれば教育委員会が指導や教員研修などを行っています。
 それに対して、就学前教育・保育の主体である幼稚園、保育所(園)、そして認定こども園では、どのような基準に基づいて教育が行われているのでしょうか。
 なお、そもそも保育所は学校では無いことをもって、保育内容に教育的視点が不足していると言われる方もあります。ただ、保育所も「幼児教育を行う施設」との位置づけが明確化されており、幼稚園・保育所(園)をいくつも訪問させていただいた経験から言うと、教育の中身のレベル感は、幼保の違いというより、明らかに幼保を問わない園ごとの違いだと実感しています。
 幼稚園(及び幼稚園型認定こども園)は「幼稚園教育要領」、保育所(及び保育所認定こども園)は「保育所保育指針」、そして幼保連携型認定こども園では「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」に基づいて教育・保育を行うこととされています。
 以上のように別々の要領・指針ではありますが、教育面では、これらの要領・指針間で整合が図られています
 幼稚園では『学校教育法』において幼稚園の目標が5つ示されており、いわゆる五領域(「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」)が提示されていますが、保育所でも『保育所保育指針』において、子どもの保育の目標の中で同様に記載されているほか、幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続に向けて「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の10項目が幼保小で共有されています。

(2)国の質向上に向けた取り組み

 そうした制度上のすり合わせができている中で、どのように指導・研修をしていくかが取り組みの大切なところとなります。
 確かに幼稚園・保育所認定こども園で国の所轄庁がバラバラではありますが、この就学前教育・保育の質の向上については、現在も文部科学省が中心になって一元的に進められています
 例えば、文部科学省の諮問機関である「中央教育審議会」(いわゆる中教審)の「初等中等教育分科会」に、「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」が設置され、幼保小の接続期の教育の質的向上に関して検討が進められています。
 園ごとに行う保育に特色という意味での相違があることは、悪いことでもなんでもなく、質の高い教育・保育が確保されていないとすればそれが問題なわけです。
 仮にそうであるならば、それは保育所保育指針や幼稚園教育要領どおりに園がしていないということになってしまうのですが、それを何とかするのが、国で検討中の「幼保小の架け橋プログラム」の大事な点であり、それは以下の記事も参考にしていただけましたら幸いです。
kobe-kosodate.hatenablog.com

(3)質向上に向けた指導・研修の濃淡

 次に、教育内容面の指導・研修についてです。
 研修面では、自治体によって、公・私立の幼稚園・保育所認定こども園の合同研修が行われるなど、園の種類によらない研修機会の確保が進められています。
 実際に内容面で上述の要領・指針に基づいていないことが行われているのであれば、役所(基本的にはその園を認可した自治体)が指導しなければならないのが道理ですが、白黒つけられないところも現実としてあります。
 指導面については、自治体が指導する公立はさておき、私立については、保育所や幼保連携型認定こども園と幼稚園で、いささか状況が異なります。
 詳細は別の場にゆずりますが、保育所は、児童福祉法第24条に「役所は、保育が必要な子どもに対し、保育所認定こども園・地域型保育事業所で保育を実施・確保しなければならない(筆者要約)」とあり、その役所の責務を履行するために、私立保育所等も保育を行っています
 ですので、私立保育所等の(保育が必要な家庭への)教育・保育については、それ相応の役所の指導監督が入るわけです。
 一方で、私立幼稚園への役所の指導監督は限定的です。
 私立幼稚園の運営主体は主に学校法人ですが、私立学校は私人が寄附した財産などによって設立・運営されることを原則としています。
 私立幼稚園は、私財をなげうって創立者の「建学の精神」に基づいて「独自の校風」を築いてきたという特性に根ざして、所轄庁(役所)による規制ができるだけ制限された法制度となっており、役所が指導できる範囲は限定されています。
 ですので、基本的に私立幼稚園の教育内容に自治体が深く介入することはありません
 先駆者の方々の「教育の自由」や「私学の自治」が、自立した自由闊達な学びを広げてきた側面を考えると、保育所制度とは一線を画し、きわめて自然な話と受け止めることができますが、一律な質の確保を望む声に対応することとは、完全に両立させることはできない面が見えてきます。
 これは、児童福祉上の「日中家庭でみることができない子どもは、役所が保育しなければならない」という責務を、役所に代わって負う私立保育所やその設置者である社会福祉法人等と、そこまで役所が公的に保障することが法定化されておらず、自主的運営での充実を意識した私立幼稚園やその設置者たる学校法人の間の、設立目的にかかる相違であって、所轄庁の相違から生まれているものではないと言えます。

(4)運営や設置に要する費用の公的補助や支援

 ここまでの話の裏腹にあるのが、幼稚園より保育所のほうが一般に補助が充実であるという話です。
 福祉行政と教育行政上で、予算確保上の力の差があるかどうかは私があずかり知らぬところですが、そういう話よりも、前述の「実施責務の有無」と「指導監督の濃淡」が理由というのがしっくりきます。
 我が国では、就学前教育・保育の「義務化」ではなく「無償化」で実質的に機会保障をしている立て付けで説明がなされますが、共働きなど保育が必要な子どもの保育は「役所の義務」ですが、そうではない子どもの保育(教育)は義務ではありません。ですので、それがそのまま指導監督面の権限の濃淡に反映され、それがそのまま設置や運営に必要な費用をどれだけ補助するかにつながっています

3.まとめ

 ここまでみますと、幼保一元化を難しくさせているのは、文部科学省厚生労働省内閣府に別れているからということよりも異なる視点が見えてきます。
 それは、幼稚園制度と保育所制度の根本に関する相違と、それを担うとして設立されている法人の設立目的の相違の話につながります。
 また、自治体においても、首長部局と教育委員会の分担による業務の分断化が課題に挙げられることがあります。これは各自治体での連携や委任・補助執行などの取り組みで、業務を一元化している例が見られます。
 むしろ、例えば指定市政令指定都市)におけるネックは、幼稚園と保育所が、県の認可(幼稚園)と市の認可(保育所)に別れているところなのかもしれません。
 幼稚園と保育所の所轄庁が文部科学省厚生労働省に分かれているデメリットとしては、家庭の就労状況や居住地が幼稚園・保育所どちらに近いかだけで、制度も指導監督も異なる園で保育を受け、その提供する内容を裏打ちする施策も所轄庁も別であるということがあり、所轄庁を一本化する意義や趣旨は、方向性としては賛同の多いところです。
 一方で、幼稚園は文部科学省所管として、特別支援教育を含み小学校以降の教育と強くつながっていることや、保育所厚生労働省所管として、母子保健や療育面、養育上の支援と密接につながることも、非常にメリットだと考えられます。
 そういうことがみえてきますと、子ども施策を一元的に管理することはもちろん方向性としては大切なことですが、所管庁の統合のみでは、根本的な課題解決にはならないことや、集約させた分、別のところで断絶が生じないか等の点によく留意することが大切ではないでしょうか。

幼保一元化のこれまでの取り組みとは

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 子ども関連施策の充実に向け、国が検討中の「こども庁」創設が先送りになったというニュースが、新聞の紙面を賑わしています。
 これによって幼保一元化は先送りだと報道されていますが、これらをどう見ればよいのでしょうか。

【独自】こども庁創設、省庁調整に時間要し23年度以降に先送り…「幼保一元化」当面見送る
 政府は、子ども政策を一元的に担う行政組織「こども庁」の設置について、2023年度以降に先送りする方向で調整に入った。関係省庁の法律の分担や事務の移管業務の調整が難航しているためで、当初予定していた22年度中の設置は難しいと判断した。
引用元:読売新聞オンライン(2021/11/20 15:00)

 今回は、幼稚園と保育所の制度や所管を一つにするということについてみていきます。
 なお、前提となる幼稚園と保育所のおおまかな制度やその比較については、以下に掲載しています。
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1.これまでの経緯

(1)旧制度の認定こども園ができるまで(平成20年頃まで)

 幼稚園と保育所の違いを踏まえつつも、幼保を一元化するのはどうかという話は古くからありました。
 実際に、制度は制度として、現場として幼保一元化をしようという取り組みも、地域でも試みられてきました。
 国では、首相の諮問機関である臨時教育審議会が昭和62(1987)年に答申を出しました。
 「幼児教育の時間は基本的に4時間、保育に欠ける児童については必要な措置を講じる必要があるという異なる二つの社会的要請がある」とニーズを分けてとらえた上で、
 「3歳以降については、教育内容は保育形態により相違はあるとしても、幼児教育の観点から、両者の特性、地域の実情を踏まえつつ、共通的なものにすることが望まれる」とし、幼稚園と保育所の教育の内容の共通化を図りつつも、「幼稚園・保育所はそれぞれの制度の中でその充実を図る」ものと確認されました。
 そんな状況の中、幼保一元化の話が、制度上大きく動いたのは、三位一体の改革といわれる小泉首相の規制改革の議論においてでした。
 平成16(2004)年3月、政府は「規制改革・民間開放推進三か年計画」を閣議決定し、「幼稚園・保育所の一元化」の取り組みとして、「就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設」を平成18(2006)年から本格実施する方針を固めました。それが「認定こども園」です。

(2)認定こども園とは

認定こども園は、幼稚園と保育所以外の別個の第三の類型を作りたいということではなく、幼稚園か保育所かという二者択一ではない子育てニーズの複雑化に対応するために創られたものです。
出典元:『保育所運営ハンドブック 平成29年版』中央法規

 幼稚園や保育所都道府県から「認定こども園」になるための「認定」を受けると、幼稚園なら従来の幼稚園の役割にプラスして保育所のような機能を付加できることになり、保育所なら幼稚園のような機能を付加できることになります。
 また、それらに加えて、認定こども園になることで、より一層、地域の在宅で育児している家庭の子育て支援の役割もになうこととされました。
 実際に、待機児童の多い地域を中心に、幼稚園においても預かり保育を長時間利用して、保育所に通うような共働きの家庭が多数利用している一方、少子化に悩まされている地域では、幼稚園も保育所も集団としての教育・保育を行うことが困難になりつつあったことは事実でした。
 加えて、共働きの家庭の子どもにも、専業主婦の家庭の子どもにも、等しく集団保育や教育の機会を提供すべきという声が以前からあったのも確かであり、「共働きやひとり親家庭保育所、専業主婦家庭は幼稚園」という構図を徐々になくし、「就労状況にかかわらず幼児教育や必要な保育を総合的に提供する施設類型を」という流れは、世論の流れと合致するものだったのかもしれません。
 なお、保育内容については、従前から幼稚園は『幼稚園教育要領』、保育所は『保育所保育指針』に基づいて行ってきているわけですが、平成20(2008)年には、幼稚園教育要領と保育所保育指針の改定がなされ、整合性が図られました。保育所保育指針にはいわゆる「教育の五領域」が規定され、等しい教育の提供へと一歩が進められました。
 また、保育所保育指針には園の役割として明記されている「保護者支援」について、幼稚園教育要領には、「子育ての支援」として「地域における幼児期の教育のセンターとしてその施設や機能を開放し、積極的に子育てを支援していく必要がある」と追加され、歩み寄りがなされました。

(3)旧制度の認定こども園の課題

 そういった努力により、一定の幼保一体化への進展は見られたものの、「認定こども園」自体はなかなか増えませんでした。
 それは、あらっぽく申し上げれば、たとえば幼稚園と保育所を合築させたようなものを当時の制度での「幼保連携型認定こども園」といいますが(ややこしいですが、今の「新制度の幼保連携型認定こども園」は、そうではありません)、基本的に、幼稚園の敷地部分は、文部科学省のつくった幼稚園ルールに基づき運営し、保育所の敷地部分は、厚生労働省のつくった保育所ルールに基づき運営しなければならず、手続きや管理が大変だったからです。

2.税制抜本改革と新制度

(1)社会保障・税一体改革

 国は、その後も、きたるべき財源確保の折には、認定こども園制度の改善による子育て支援の充実をはかるべく、ワーキングチームをつくるなどして、認定こども園制度の改善を検討していきました。
 「総合施設」を作り保育所・幼稚園をすべて廃止する案など、さまざまに検討が進められました。
 その後、政府では社会保障(年金・医療・介護)の財政上の将来的な行き詰まり感から「消費税増税まったなし」の機運が高まりました。
 平成23(2011)年6月に政府は、消費税増税を柱とする税制抜本改革を行うとともに、そのお金の一部を「子育て」の分野にあてるための法律を策定していくことを決定しました。それにあわせ、認定こども園制度の見直しが、現実の話となってきたのです。
 政府は、平成24(2012)年2月に「社会保障・税一体改革大綱」を閣議決定しました。それまで検討が重ねられてきた「子ども・子育て新システム検討会議」の「子ども・子育て新システムに関する基本制度」が、平成27(2015)年4月にスタートした現在の制度の土台となっていきます。

(2)「子育て」が社会保障の一つに

 その後、国会の審議を経て、平成24(2012)年8月に法案が成立し、子ども・子育て支援新制度の法律が整備されました。
 その審議は難航しましたが、その国会審議中の平成24(2012)年6月における民主党自民党公明党による法案の修正協議をいわゆる『三党合意』と呼び、「社会保障・税一体改革に関する確認書」が交わされたことが、子ども・子育て支援新制度の実現に大きくつながりました。
 また、その決議の際には、衆議院でも参議院でも附帯決議がなされています。附帯決議とは、「このあたりが将来的課題だと思うので、今後の対応課題として追記することをあわせて(附帯)決議する」といったところでしょうか。その附帯決議は、衆議院で6件、参議院で19件あり、その量をみてもどれだけ生みの苦しみがあったかが知らされます。
 とはいえ、「年金・医療・介護」に加え、ようやっと「子育て」が社会保障のひとつとして、恒久的な財源で保障されるようになったことは、「奇跡の果実」(『早わかり 子ども・子育て支援新制度 現場はどう変わるのか』ぎょうせい)というほかありません。
 この奇跡の果実を、たずさわる者が大切に育んでいかなければなりません。

3.平成27年度からの新制度による幼保制度の一本化

(1)入園手続きと園の運営費補てん(給付)の一本化

 新制度になって根本的に変わったところの一つは、基本的に、幼稚園や保育所認定こども園、地域型保育事業所の入園手続きや園の運営費の補てん(給付)について、同じルールを土台としたことです。
 これを「教育・保育給付認定」と言います。
 「教育・保育給付認定」については、以下の記事に解説しています。
kobe-kosodate.hatenablog.com

(2)新制度の「幼保連携型認定こども園

 もう一つのポイントは、新制度で幼保連携型認定こども園の制度が大きく改善されたことです。
 まず、幼保連携型認定こども園は、幼稚園と保育所の特長をあわせもった施設であり、親の就労の如何にかかわらず、子どもが続けて通園できることを志向した園ですが、 それを、「幼稚園部分」(学校)と「保育所部分」(児童福祉施設)の合築のようなこれまでの概念を改め、学校でもあり児童福祉施設でもある「ひとつの園」だということにしました。
 加えて、幼保連携型認定こども園の設置について認可を受けるには、項目ごと(例えば、職員数や面積基準など)に、幼稚園と保育所の認可基準の厳しい方をパスしなければならないとされました。

(3)保育所も教育的施設とされ、幼保が同じ教育目標に

 幼稚園において、「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであり、幼児期の特性を踏まえ、環境を通して行うものであることを基本とする」(『幼稚園教育要領』)とされているのに対し、保育所も、「環境を通して乳幼児期の子どもの健やかな育ちを支え促していく」、「乳幼児期にふさわしい経験が積み重ねられていくよう丁寧に援助する」(『保育所保育指針解説』)などとされています。
 また、幼稚園では『学校教育法』において幼稚園の目標が五つ示されており、いわゆる五領域(「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」)が提示されていますが、保育所においても『保育所保育指針』において、子どもの保育の目標の中で前述の五領域が示されており、幼稚園と保育所で教育目標については整合がとられています

 また、平成30(2018)年度から施行・適用された『幼稚園教育要領』と『保育所保育指針』の改正においては、どちらにも「育みたい資質・能力」として「知識及び技能の基礎」、「思考力・判断力・表現力等の基礎」、「学びに向かう力、人間性等」の3つが提示されました。
 そして、小学校教育との円滑な接続として「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(「健康な心と体」「自立心」「協同性」「道徳性・規範意識の芽生え」「社会生活との関わり」「思考力の芽生え」「自然との関わり・生命尊重」「数量・図形、標識や文字などへの関心・感覚」「言葉による伝え合い」「豊かな感性と表現」)が示されています。
 加えて、保育所については「幼児教育を行う施設」との位置づけが明確化されました(幼稚園は、もとより学校教育法に定める幼児教育を行う「学校」です)。
 新制度で「教育と保育をするところが『認定こども園』である」として、新制度で「認定こども園」が推し進められるにしたがい、「保育所では教育が受けられない」という誤解が広がりました。法律の解釈は別の場にゆずりますが、幼稚園も「幼児を保育する」ところで、「幼児の保育をつかさどる」のが幼稚園教諭の業務となっており(『学校教育法』)、幼児に対する活動すべてを「保育」と総称しています。これについては、大学教授で国の「子ども・子育て会議」で新制度設計に尽力された柏女霊峰教授も次のように述べています。

「教育」と「保育」という表現は、それぞれが行われる舞台の違いというべきであり、すでに見たとおり、目的と方法が同じである以上、内容そのものには違いはないといってよい。
出典元:『子ども・子育て支援制度を読み解く その全体像と今後の課題』誠信書房

4.まとめ

 児童福祉として、必要な子供にはまちがいなく保育を受けることを役所が保障することが要である「保育所」制度。一方、幼児期の教育保障を前提としつつ、私学の自主自立、建学の精神の元で、自由な教育を行い、あるいは自由な教育を受ける権利が浸透している「幼稚園」
 そんないわば水と油の制度を、保育所への入園での「利用調整」(いわゆる「選考」)は残しながら、入園手続きや園の応諾義務、運営費(給付)の流れなどは、平成27年度からの新制度で、基本的に一本化されました。
 また、提供する教育・保育内容も、現在は、「幼稚園教育要領」も「保育所保育指針」も目指す方向は同じになっています。
 そして、その幼保の機能の合わさった「幼保連携型認定こども園」制度もブラッシュアップされました。
 ですので、サービス提供者目線だった幼保の制度は、だいぶ利用者目線になっているはずで、厚労省文科省内閣府で幼保の所管がたとえ別れていたとしても、制度上は同じ方向を向いて、それぞれで同質の教育・保育が提供され、利用時間に応じて同じような費用負担やサービスになっているはずなのです。
 しかし、実際はそうなっていないですし、誰も「すでに幼保一元化はできている」なんて思ってくれていないのが現状です。
 それは、どういうことなのか。

 この原因を理解して、この改善に向かうような取り組みをしなければ、「子ども庁」を創設して所管を一つにして見た目をスッキリさせても、本当に子どもや保護者にメリットのある「幼保一元化」にはつながらないことが見えてきます。
 改めて今後の記事で、幼保を一つにするとはどういうことなのか、掘り下げていきたいと思います。

「待機児童対策」とは(その2)

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 待機児童問題が都心部を中心に根強く残る一方で少子化は進み、家庭の経済格差と養育環境の格差の中で、幼児期の教育・保育サービスは、実際も制度面でも乱立の様相です。
 前回の「『待機児童対策』とは(その1)」では、待機児童対策のネックをみていきました。
kobe-kosodate.hatenablog.com
 今回は、待機児童対策の基本的な理解に向けてに引き続きみていきます。

1.「統計上の待機児童」は単なる一つの指標

 待機児童解消の本当のゴールについて考えてみます。
 私には、①国が統計をとっている待機児童数のカウントがゼロになり、②「事業計画」で計算した必要な数だけの量を整備して、潜在的なニーズに見合った量だけ用意できたとしても、あいかわらず役所の窓口では、保護者から大変な事情のお話をうかがったり、納得できないとのお叱りに向き合っている光景が想像されます。
 なぜ、そうなるのか。
 それは、窓口で応対した経験から言って、①国の待機児童数の解消や、②事業計画上の足し算・引き算による量の整備と、「入園に対する地域の満足度」は、完全に重なっていないのが自然な現実だからです。
 国の指示を待つまでもなく、「国が統計をとっている待機児童数」の解消はまちがいなく達成すべきです。
 国が統計をとる待機児童数は、簡単に言うなとお叱りを受けるでしょうが、ある程度の量の園をある程度の立地に建てれば、それだけ着実に減る数だからです。
 ただし、その待機児童が解消しても、それに役所があぐらをかいていては、保護者には新制度のメリットを実感できないままでしょう。
 それには、以前より待機児童をとりまく状況が変わってきているのを知らなければなりません。
※いわゆる「隠れ待機児童」については以下もご覧ください。
kobe-kosodate.hatenablog.com

2.待機児童対策の留意点

 平成27年度から子ども・子育て支援新制度にシフトしていった中で、どういった点が以前と変わってきているか、大きく3点挙げたいと思います。

(1)園の多様化の進行

 一つ目は、「保護者の思う『選べる範囲』は、地域によって、国や役所が考える『通える範囲』とズレてはいないか」ということです。
 園の多様化が進んでいます。国が、認定こども園へのシフトを推進しているということは、基本的な保育料とは別に料金を保護者に負担してもらって、園が特色ある教育やサービスの提供をすることを、国がある程度前向きにとらえているということです。
 そうなれば、保護者も園をえり好みをするようになるのは当然ですが、それに加え、別の要素として、追加費用を払える力が家庭によってちがうことにも役所は目を向けなければなりません。

(2)小学校の校区とのギャップ

 「子どもは環境が変わってもすぐに友達ができる」とは言われますが、それでもやはり保育所や幼稚園で友達になる子らと同じ小学校区になるのかを気にされる保護者は多くおられます。
 子どもが一人ぼっちにならないかも不安ですが、自分自身(保護者)に知り合いがいないことで、より一層不安感が増すとも聞きます。

(3)園の統廃合

 日本が「ベビーラッシュ」と言われ、子どもがいっぱい生まれたころに多く建てられた保育所や幼稚園の建物が、何十年という年数を経て、時期的に耐震性や老朽化の問題から改修を必要としているものもあります。
 その改修の費用をおさえるために、園を統合したり廃園させていく話も出てくるでしょう。そうなれば、ますます選択肢は減っていきます。

3.2歳までの保育施設(地域型保育事業所など)の位置づけ

 もう一つは、「地域型保育事業所」についてです。
 地域型保育事業所には、「連携施設」が必要です。その「連携施設」の役割の一つが、2歳までの入園が原則の地域型保育事業所を3歳で卒園した後の「行き先(受け皿)」です。
 まず、地域型保育事業所は、その連携施設を用意するまでに、制度上5年の猶予があります。また、国から通知されている「3歳以降の受け皿」としての意味合いは、優先度が非常に高いということであって、入園の確約ではありません。
 そもそも「地域型保育事業所」は、その園の保育内容や立地、その少人数での運営の特性に惹かれて入園を希望される保護者の子どもで満たされるべき園ではないかと考えます。
 そうではなく、たとえば「地域型保育事業所は、保育所に入れなかったときのための、一時しのぎの場」という位置づけだけで、保護者も保育者(園の先生がた)も役所も認識が固定化してしまうとどうなるでしょうか。
 保護者は、保育所などに転園希望を出しながらの「地域型保育事業所」への通園となります。
 地域型保育事業所は保育所に準じて『保育所保育指針』にしたがった保育を行うこととされていますが、「一時しのぎの場」という継続的保育が不安定な状況で、3歳までの発達をにらんだ個々の子どもへのかかわり合いや、保育のモチベーションの向上が「保育所」並みになされるのでしょうか。
 新たに開設する予定の地域型保育事業所の皆さんへの説明会などで私が説明をさせていただきながら、参加の皆さんの表情をうかがいつつ心配していたのは、「何を偉そうに」とお叱りを受けそうですが、実はそこなのです。
 一方、「親の七光り」ならぬ「連携施設の七光り」で、「この地域型保育事業所に入っておけば、3歳以降に『お目当ての園』に無条件で入園できるから、それまでこの園で我慢しよう」という保護者がおられたとして、そういう状況に安住する地域型保育事業所があったとすれば、それにも私は首をかしげざるを得ません。
 保護者が「未来」を心配されるお気持ちは分かりますが、子どもにとっては「いま」がすべてです。そして実際に、子どもは全力で「いま」に気持ちも身体もぶつけながら、それぞれの「未来」への階段をのぼって行くものなのだと、毎日保育現場に顔を出すわけではない私にも、先生方の言葉を通して感じるのです。
 2歳までの貴重な時期が、3歳以降のパスポートをとるための手段に堕するなんて、ものすごい悲劇だと思われませんか。
 いまどのような保育を受けられるかで「地域型保育事業所」は他園と勝負すべきだと思うからこそ、3歳以降の卒園後の行き先が不透明なことによって、選ばれたり選ばれなかったりするのは、子どもにも保育者にも良くないと思いますし、これも、待機児童数がゼロというのと、「入園に対する地域の満足度」が一致していない大きな例だと考えています。

4.まとめ

 以上のようなことを見ていきますと「潜在的なニーズも含めた量の整備」に加えて「地域ごとの状況に照らしたプラスアルファ」が必要だということがみえてきます。
 それには、行政目線の区画より細かく需給バランスを見るとか、「利用調整」を行う役所の窓口での状況に機動的に対応し、柔軟に整備量を変えていくなど、細かく地域のニーズをひろって、必要度の高い地域から優先的に整備をすすめる手法が考えられます。
 子ども・子育て制度の大きな枠組みの流れの中にあっては、少子化の進行で今の待機児童問題はあと数年から十数年の間の一時的なものかもしれません。しかし、保育を受けるその子どもにとっては一生モノだということを役所はよく考える必要があると思います。

「待機児童対策」とは(その1)

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 ここでは、保育所等の「待機児童対策」についてみていきます。

1.「保育園落ちた」

 「保育園落ちた日本死ね!!!」という過激な悲憤が流行語大賞にノミネートされたのは平成28(2016)年でした。待機児童が全国的な課題となって久しい年月が過ぎています。保育園に入るための手続きを、就職活動=就活にならって「保活」と言われるのも定着してしまいました。

 都市部では保育の受け入れ枠不足が慢性化していますが、保育園を建てようにも用地不足、建てれば迷惑施設呼ばわりで地域の理解を得ることは難しく、建てても保育士不足という状況です。 少子化といいながらどうしてこのような状況になるのでしょうか。

 共働き家庭の増、ひとり親家庭の増、園ができれば働きたい家庭は多く、保育ニーズの高まりはとまりません。

 保育枠の確保には、単なるニーズに応じた数字合わせの整備ではなく、保育士不足や用地不足を解消し、地域のあたたかい理解を得ながら進めていく必要があります。

2.どうして「統計上の待機児童」ですら減らないのか

 まず、国が統計をとっている待機児童のカウントの基本的な考え方として、通える範囲に、保護者が希望する園とは別の園があって、役所が「こちらなら空いていますよ」と入園を案内しても保護者が断った場合、待機児童にはカウントしないことになっています。

 それは、国や役所としてはある意味当然の考え方だと思います。子育て家庭以外の人の税金も使って、園を建てたり、運営したりしているのです。「通える範囲にあるのなら、そちらに行ってください」と国や役所が思うのは、税金を使う以上、ひとつの理屈であるからです。

※「隠れ待機児童」については、以下の記事を参照ください。

kobe-kosodate.hatenablog.com

 ただ、全国の役所は「ニーズ調査」で、「園が近くにできれば、子どもを預けて働きに出たい」という潜在的なニーズも含めた量の園を建てる(整備する)よう計画しています。それだけ整備すれば、国が考える統計上の待機児童はゼロになることはもちろん、理屈としては潜在的ニーズも掘り起こし尽くしてそれに対応できる量の園をつくったことになるはずです。

 それなのに、どうして統計上の待機児童ですら減らないのでしょうか。

3.考えられるボトルネック

(1)女性就労率の上昇ペース

 まず一番に挙げられるのは、女性就労率の上昇ペースが、予想以上だったこと。

(2)事業計画上の頭打ち

 次に、「子ども・子育て支援事業計画」で頭打ちになっていて、不足していないことになっているため、待機児童がいながら、保育所等を増やせない地域もある。

 待機がいながらなぜそうなるか。

 事業計画は「0歳」「1~2歳」「3歳以上」の三段階に分けて「ニーズ」と「供給量」を比べることになっており、「3歳以上」が、預かり保育をしている幼稚園や幼稚園型認定こども園の定員も足し合わせて不足していない場合は、必ずしも保育所や幼保連携型認定こども園を作らずとも、0~2歳対応の、地域型保育事業所をつくれば良いとなり得るから。

 しかし、

①「地域型保育事業所ではなく、保育所認定こども園に預けたい」というニーズもあるほか、

②3歳以降の保育枠が足りているといっても、幼稚園の預かり保育では対応できない長時間保育のニーズのために、待機が増加していることもある。

(3)3歳待機

 小規模保育事業所で卒園後の受け皿が確保できていない場合、三歳で待機になる可能性がある。

 0~2歳に地域型保育事業所に通っている間に、保護者がフルタイム就労をはじめているといった場合も多く、3歳での転園時の入園選考が激戦になる傾向にある。その際、「空いているのは幼稚園だけです」となった場合、幼稚園の預かり保育で対応できない長時間勤務の保護者は、待機するか、せっかくのフルタイム就労をあきらめることも考えなくてはならなくなる。

(4)用地不足

 本当に用地不足で都心には保育所等を建てる土地が残されていない。駅前に保育ステーションを整備し、送迎バスを出して、遠隔地で保育するなど取り組んでいる例もある。

(5)保育士不足

 本当に保育士不足で、定員までの子どもを預かることができない園が出てきている。都心では保育士の取り合いになっている。

(6)入園諸費用など

 生活が困窮している家庭には、一部の幼稚園・認定こども園の入園料や制服代などの諸経費は高すぎてみんながみんな通えない。(幼児教育の無償化により無料になったのは月々の保育料のみ)

(7)整備に要する期間

 例えば4月に大量の待機児童が発生したとして、それに気づいてから保育所認定こども園を新設する計画をたてたとしても、通常の予算スケジュールでは、園の整備は翌年4月に間に合わない。翌々年まで待たなければならない。

※続きは、以下のページに掲載しています。

kobe-kosodate.hatenablog.com