「待機児童対策」とは(その2)
待機児童問題が都心部を中心に根強く残る一方で少子化は進み、家庭の経済格差と養育環境の格差の中で、幼児期の教育・保育サービスは、実際も制度面でも乱立の様相です。
前回の「『待機児童対策』とは(その1)」では、待機児童対策のネックをみていきました。
kobe-kosodate.hatenablog.com
今回は、待機児童対策の基本的な理解に向けてに引き続きみていきます。
1.「統計上の待機児童」は単なる一つの指標
待機児童解消の本当のゴールについて考えてみます。
私には、①国が統計をとっている待機児童数のカウントがゼロになり、②「事業計画」で計算した必要な数だけの量を整備して、潜在的なニーズに見合った量だけ用意できたとしても、あいかわらず役所の窓口では、保護者から大変な事情のお話をうかがったり、納得できないとのお叱りに向き合っている光景が想像されます。
なぜ、そうなるのか。
それは、窓口で応対した経験から言って、①国の待機児童数の解消や、②事業計画上の足し算・引き算による量の整備と、「入園に対する地域の満足度」は、完全に重なっていないのが自然な現実だからです。
国の指示を待つまでもなく、「国が統計をとっている待機児童数」の解消はまちがいなく達成すべきです。
国が統計をとる待機児童数は、簡単に言うなとお叱りを受けるでしょうが、ある程度の量の園をある程度の立地に建てれば、それだけ着実に減る数だからです。
ただし、その待機児童が解消しても、それに役所があぐらをかいていては、保護者には新制度のメリットを実感できないままでしょう。
それには、以前より待機児童をとりまく状況が変わってきているのを知らなければなりません。
※いわゆる「隠れ待機児童」については以下もご覧ください。
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2.待機児童対策の留意点
平成27年度から子ども・子育て支援新制度にシフトしていった中で、どういった点が以前と変わってきているか、大きく3点挙げたいと思います。
(1)園の多様化の進行
一つ目は、「保護者の思う『選べる範囲』は、地域によって、国や役所が考える『通える範囲』とズレてはいないか」ということです。
園の多様化が進んでいます。国が、認定こども園へのシフトを推進しているということは、基本的な保育料とは別に料金を保護者に負担してもらって、園が特色ある教育やサービスの提供をすることを、国がある程度前向きにとらえているということです。
そうなれば、保護者も園をえり好みをするようになるのは当然ですが、それに加え、別の要素として、追加費用を払える力が家庭によってちがうことにも役所は目を向けなければなりません。
(2)小学校の校区とのギャップ
「子どもは環境が変わってもすぐに友達ができる」とは言われますが、それでもやはり保育所や幼稚園で友達になる子らと同じ小学校区になるのかを気にされる保護者は多くおられます。
子どもが一人ぼっちにならないかも不安ですが、自分自身(保護者)に知り合いがいないことで、より一層不安感が増すとも聞きます。
(3)園の統廃合
日本が「ベビーラッシュ」と言われ、子どもがいっぱい生まれたころに多く建てられた保育所や幼稚園の建物が、何十年という年数を経て、時期的に耐震性や老朽化の問題から改修を必要としているものもあります。
その改修の費用をおさえるために、園を統合したり廃園させていく話も出てくるでしょう。そうなれば、ますます選択肢は減っていきます。
3.2歳までの保育施設(地域型保育事業所など)の位置づけ
もう一つは、「地域型保育事業所」についてです。
地域型保育事業所には、「連携施設」が必要です。その「連携施設」の役割の一つが、2歳までの入園が原則の地域型保育事業所を3歳で卒園した後の「行き先(受け皿)」です。
まず、地域型保育事業所は、その連携施設を用意するまでに、制度上5年の猶予があります。また、国から通知されている「3歳以降の受け皿」としての意味合いは、優先度が非常に高いということであって、入園の確約ではありません。
そもそも「地域型保育事業所」は、その園の保育内容や立地、その少人数での運営の特性に惹かれて入園を希望される保護者の子どもで満たされるべき園ではないかと考えます。
そうではなく、たとえば「地域型保育事業所は、保育所に入れなかったときのための、一時しのぎの場」という位置づけだけで、保護者も保育者(園の先生がた)も役所も認識が固定化してしまうとどうなるでしょうか。
保護者は、保育所などに転園希望を出しながらの「地域型保育事業所」への通園となります。
地域型保育事業所は保育所に準じて『保育所保育指針』にしたがった保育を行うこととされていますが、「一時しのぎの場」という継続的保育が不安定な状況で、3歳までの発達をにらんだ個々の子どもへのかかわり合いや、保育のモチベーションの向上が「保育所」並みになされるのでしょうか。
新たに開設する予定の地域型保育事業所の皆さんへの説明会などで私が説明をさせていただきながら、参加の皆さんの表情をうかがいつつ心配していたのは、「何を偉そうに」とお叱りを受けそうですが、実はそこなのです。
一方、「親の七光り」ならぬ「連携施設の七光り」で、「この地域型保育事業所に入っておけば、3歳以降に『お目当ての園』に無条件で入園できるから、それまでこの園で我慢しよう」という保護者がおられたとして、そういう状況に安住する地域型保育事業所があったとすれば、それにも私は首をかしげざるを得ません。
保護者が「未来」を心配されるお気持ちは分かりますが、子どもにとっては「いま」がすべてです。そして実際に、子どもは全力で「いま」に気持ちも身体もぶつけながら、それぞれの「未来」への階段をのぼって行くものなのだと、毎日保育現場に顔を出すわけではない私にも、先生方の言葉を通して感じるのです。
2歳までの貴重な時期が、3歳以降のパスポートをとるための手段に堕するなんて、ものすごい悲劇だと思われませんか。
いまどのような保育を受けられるかで「地域型保育事業所」は他園と勝負すべきだと思うからこそ、3歳以降の卒園後の行き先が不透明なことによって、選ばれたり選ばれなかったりするのは、子どもにも保育者にも良くないと思いますし、これも、待機児童数がゼロというのと、「入園に対する地域の満足度」が一致していない大きな例だと考えています。
4.まとめ
以上のようなことを見ていきますと「潜在的なニーズも含めた量の整備」に加えて「地域ごとの状況に照らしたプラスアルファ」が必要だということがみえてきます。
それには、行政目線の区画より細かく需給バランスを見るとか、「利用調整」を行う役所の窓口での状況に機動的に対応し、柔軟に整備量を変えていくなど、細かく地域のニーズをひろって、必要度の高い地域から優先的に整備をすすめる手法が考えられます。
子ども・子育て制度の大きな枠組みの流れの中にあっては、少子化の進行で今の待機児童問題はあと数年から十数年の間の一時的なものかもしれません。しかし、保育を受けるその子どもにとっては一生モノだということを役所はよく考える必要があると思います。