自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

何かあってからでは遅い!自治体の大事な仕事、認可保育園等への指導について(その2)

 以下の記事に続いて、保育の質の担保についてみていきます。kobe-kosodate.hatenablog.com

 

1.「公共性」と「園の個性」

 私が園と保護者の間に入ると、「白黒はっきりするミスならば頭も下げるし改善を行っていくのは当然だが、教育・保育の内容にまで口を出すな」「行政の不当な介入だ」とのご意見を、特に自主性や自治を重んじる園からいただくことがありました。

 ただ、「運営基準」で示されている内容は、園の自主性や主体性を阻害する・しない以前の話ばかりです。

 特色ある教育・保育は大切であり、まったく否定するものではありません。

 しかし、それは「公共性の土台」にたった上でのことと考えています。

 私が「行政の指導」と「園の特色・個性」が相反しないことを強調するのも、園が思っておられる以上に相談・苦情を申し出にくいと保護者が感じている園がままあるからです。

 多忙な業務で時間のとれない先生方の言い分もおありでしょうが、「送り迎えの際も十分に先生とコミュニケーションがとれない」、何か気になることがあっても「子どもを人質にとられているようなもの」と、悩む保護者は口をそろえます。

2.「子どもを人質にとられているようなもの」

 たとえば、「先生の話を聞かないからと、うちの子どもが部屋の外で立たされた。そういうことって他の園でもあるのでしょうか」とうちあけられたお母さん。

 こんな相談が1件や2件ではないのです。

 昔ならいざ知らず、現在は小・中学校でもしていないことであり、明らかに体罰です。

 ましてや小学校入学前の子どもですからそのまま泣いておもらししてしまったという事例など、子どもの人格をはずかしめていることにほかなりません。

幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものである。(教育基本法

また、

体罰や言葉の暴力はもちろん、日常の保育の中で、子どもに身体的、精神的苦痛を与え、その人格を辱めることが決してないよう、子どもの人格を尊重して保育を行わなければなりません。(厚生労働省保育所保育指針解説書』)

とあるとおりです。

3.苦しい目をさせることは、しつけの一環か

 「子どもには話すだけではわからない。少しくらい苦しい目をさせないとわからない」「私の園ではしつけの一環だ」と認識しておられるとすれば、なおのこと問題であると考えています。

 「日本には体罰を、しつけ、教育の手段として容認する風土がある」と警告し、「子育てハッピーアドバイス」シリーズで著名な明橋大二氏はつぎのように述べています。

体罰は、なぜいけないのでしょうか。

まず、体罰の根本にある考え方は、「間違っている人には、たたいてでも知らせなければならない」ということです。そのように育てられた子どもは、また、友達が間違っていたら、その子をたたいてもいいんだ、と思います。大人から見て非はないときでも、子どもが、相手が間違っていると思ったら、たたきに行きます。その結果、手を出すことが多くなります。(略)「暴力はいけません」と教えていながら、暴力で争いを解決する方法を教えているのと結果は同じことになるのです。

また、体罰の根本にある考え方のもう一つは、「口で言ってわからない者には、体で教えるしかない」ということです。

そのように子どもを育てます。そのうちに、私たちは、年を取り、体の自由がきかなくなり、頭の働きも鈍ります。食事や排泄も、思うようにできなくなります。子どもに言われてもなかなかそのとおりにできません。つまり、赤ちゃんと同じ状態に返っていくのです。

そのとき、体罰を受けて育った子どもは、親に体罰を加えます。「口で言ってわからない者には、体で教えるしかない」からです。

児童虐待」と「老人虐待」は、実は、根っこは同じところにあるのです。

(『忙しいパパのための子育てハッピーアドバイス』1万年堂出版)

 そのような体罰まがいのことをしなくてもクラス運営を行うだけの力量が先生方にあるか、また、そもそも園に、クラス編成や先生の配置などで問題がないのかが問われています。

 役所は、園の自主性・主体性以前の問題であるこのような課題がまだ一部の現場に残されていることを認識し、保護者からの相談・苦情にしっかりと耳を傾け、園と調整していかなければなりません。

 実際に園の側としても、よりよい運営をしていこうと尽力しておられる園長先生なら、そのようなクラス運営の現状や保護者の悩みが仮にあるのであれば、黙っておられるよりむしろ保護者からでも役所を通してでも、相談しにきてほしいと願っておられるものなのです。

4.園の自主点検や第三者評価の取り組み

 もちろん、良識ある園ならば、園長先生や副園長・主任先生の陣頭指揮のもと、日々改善に取り組んでおられます。

 まず、保育所においては、社会福祉サービスの提供者として、苦情解決の取り組みに努めることが定められています。

 具体的には、苦情相談窓口・担当者を公表し、相談しやすい環境を整備するほか、法人の監事や地域の民生委員など、第三者委員をあらかじめ選任し、第三者を交えての苦情対応に努めています。

 そのほか、保育所保育指針に書かれているとおり、提供する保育内容について、職員が自己の取り組みを「振り返り」、職員同士で議論しながら改善していくなど、職員や園としての自己評価の取り組みもしておられることに加えて、他機関に第三者評価をお願いし、第三者の目から保育内容等を評価・点検する取り組みをしておられる園もあります。  

 また、幼稚園も、『学校教育法』などの定めにより、職員や園の自己評価やその公表、評価結果の設置者への報告を行うなどとされているとおり、各園で苦情解決のマニュアルなどを整備したりしながら、日々心のこもった対応に努めておられます。

 それらを実際に適正に対応いただいている園については、やはり市役所や区役所への苦情も概して少ないといえるのかもしれないと感じています。

 

 ここまでお読みいただきありがとうございました(*^^*)