子育て支援のイロハ②(「整備」:保育園や認定こども園を建てるということ)
先回は、子ども・子育て支援の設計図にあたる「事業計画」について見ていきました。
その続きについて、これまでの経過を見ていきます。
- 1.計画どおりに園を用意(整備)する
- 2.横浜市「待機児童ゼロ」の衝撃
- 3.女性の就労促進を目指す「待機児童解消加速化プラン」
- 4.新制度を前倒しした「原則認可」
- 5.待機児童解消への手法
- 6.女性就労率80%分の保育枠を整備する「子育て安心プラン」
1.計画どおりに園を用意(整備)する
次の積み木は、「整備」という名前の積み木です。
これを役所や法人の理事長先生、園長先生に手伝ってもらって、①事業計画の上に置きます(図2)。
整備には、施設の大規模な修繕や老朽改築などもありますが、ここで取り上げる「整備」は、
- 新たに保育所・認定こども園などを建てたり、(新設)
- もともとある保育所などで受け入れられる子どもの人数(「定員」といいます)の増員を行うために増改築したり、(定員増)
- 地域の公民館などの余裕スペースを改修して新たな施設をつくったり
するなど、子どもを受け入れられる枠を増やすことです。
整備する園には、役所が建てる「公立の園」もあれば、社会福祉法人や学校法人、株式会社などがつくる「私立の園」もあります。
役所は「事業計画」に沿って不足する分を「整備」していかなければなりません。
2.横浜市「待機児童ゼロ」の衝撃
待機児童解消を目指したこれまでの取り組みで、抜きん出た成果を挙げたのは横浜市でした。
横浜市は、「保育待機児童解消プロジェクト」を立ち上げ、現場で問題を見ている職員が知恵を出し合って考えた施策を次々と実施し、平成22(2010)年4月時点で1,552人と、全国の自治体で最下位だったのを、わずか3年でゼロにしました。
「保育所をつくればつくるほど、近くにできたのなら働きたいという女性が増えてニーズを掘り起こし『いたちごっこ』だ」となげく他の役所を横目に、当時の林市長は「申込者が増えるのはいいことで、ウエルカムです。就労したいのに、子どもを預ける場がなくて我慢していたということですから」と答えています(『読売新聞』平成25(2013)年1月24日)。
これまでいくつもの役所が「待機児童解消は最優先課題」と言いながらなかなか進まなかった泥沼の問題に真っ向から取り組んで著しい成果を挙げたのです。
この待機児童数というのは、国へ報告する数字であるため、国が定義を定めています。
この数はイコール「申し込んでまだ入園できていない人」ではありません。
たとえば、「この保育所しか行けない(あるいは「行きたくない」)」と、特定の保育所を希望して待機になっているが、実は近くの他の保育所なら空いていて紹介を受けたが断った場合などは、国が定義する待機児童には入りません。
その他にもさまざまな条件があります。
ですので、ゼロといっても解釈や評価はさまざまかもしれません。
しかしながら、その国定義の待機児童すらなかなかゼロにできない自治体が多い中での際立った横浜市の取り組みは、全国の自治体に衝撃を与えたほか、政府は横浜市の取り組みを全国の自治体に「横展開」させる方向に動いていきました。
3.女性の就労促進を目指す「待機児童解消加速化プラン」
平成25(2013)年5月、安倍首相は「女性の活用」を成長戦略の一環に位置づけ、女性が働きやすい環境を整えるということで「待機児童解消加速化プラン」を打ち出します。
少子化と女性の就労動向などから、平成29(2017)年度が「子どもを預けて働きたい」という保育需要のピークだとみた政府は、横浜市の取り組みを「横展開」させることで、その平成29(2017)年度末には全国の待機児童を解消させると宣言しました。
そして、全国の役所が今後作成する「事業計画」においても、平成29(2017)年度末には待機児童が解消する計画にするよう指示が出たのです。
(結果として達成できず、次の「子育て安心プラン」に引き継がれ、目標年次は令和2(2020)年度末に変更されましたが、令和2(2020)年度においても達成できず、さらに先送りされました。)
4.新制度を前倒しした「原則認可」
ところで、制度上、「事業計画」に沿って整備が行われますので、必要な量が整備できていない区域で「認可してほしい」とどこかの法人が役所に申請を出してこられた場合、認可要件がそろっていれば、その園を認可(平たくいえば「開園(開業)できる」ということです)しなければなりません(これを「原則認可」といいます)。
どうしてそのような方針になったのかといいますと、新制度になるまでは、「認可」は役所の裁量にまかされている部分がありました。
たとえば、財政的に工面できないので、待機児童がいても新しく園を建てることを渋る役所もあれば、国は以前から株式会社が保育所を設置することを認めていますが、役所によっては断っている事例もありました。
政府は、新制度まで待っておられないということで、平成25(2013)年5月の規制改革会議の提言を受け、株式会社立などについて排除することなく新制度の趣旨を踏まえて、原則認可するようにとの指示を出します。
なお、私の地元の市ではすでに株式会社立の保育所もありましたが、数は多くありませんでした。
それは、保育所を運営するための費用として役所から受け取るお金(「運営費」といいます)は厳しく使いみちが決まっていることや(「使途制限」といいます)、社会福祉法人のような財産の処分に制約のある非営利法人とは異なり、営利法人である株式会社には、保育所を設置する際の初期投資について国からの補助金も制限されていたからです。
5.待機児童解消への手法
単純に保育所をたくさん作れば待機児童解消できるではないかと思われるかもしれませんが、話はそう簡単ではありません。
実際に待機児童解消に向けて、新制度で国が推し進めようとしているやり方はおおきく4つあります。
二つ目は、幼稚園を改修して認定こども園になってもらい、長時間受け入れる枠を増やすこと、
三つ目は、認可外保育施設を改修するなどして、地域型保育事業所や保育所など、役所が「認可」する園になってもらうこと、
そして最後の四つ目は、それら受け入れる子どもが増えることに対応するだけの先生(保育士や幼稚園教諭)を増やすことです。
1つ目の「認定こども園や保育所などを新たに建てること」ですが、0歳から5歳までにわたってまとまって待機児童がある場合、このやり方が当然基本のやり方になります。
しかし、1つ目のように新たに園を建てようとすれば、その土地を見つけなければなりませんが、なかなか駅の近くなど利便性のよいところではまとまった物件は見つかりません。
また、すでに幼稚園では、ある程度預かり保育を実施して、フルタイムの共働きの家庭でも利用していたり、パート勤務の保護者の子どもならすでにたくさん通園しているという園もあります。
そこで、幼稚園を改修して園の調理室で調理された給食を提供できるようにするなど準備を整えてもらって、幼稚園でも長時間の保育が必要な子どもの保育をして、効率的に待機児童の解消につなげようとするのが2つ目のやり方です。
また、認可外保育施設に改修してもらうなどして、認可の園に格上げして、質の確保された保育を提供してもらうことなども、3つ目として国の進めていることです。
ただし、これら受け入れの枠を増やしても、肝心の先生(保育士)がいなければ、実際の保育はままなりません。そこで、最後に挙げた保育士の先生の確保が大変重要になってきます。
待機児童解消については、以下の記事も参考にしていただければと思います。
6.女性就労率80%分の保育枠を整備する「子育て安心プラン」
平成28(2016)年、国は企業主導型保育事業をスタートさせました。これは、保育する人のうち、半数未満は保育士資格を不要としながら、おおむね保育所並みの基準を満たすことを条件に、国から助成金を受けて従業員や地域の子どもを保育するものです。
次いで平成30(2018)年度からスタートした「子育て安心プラン」。
目標は、2020年度末までに待機児童を解消し、日本がスウェーデン並みの女性就労率80%(スウェーデンの女性就労率は82.5%(2016年調べ))になっても対応可能な保育所などの受け皿確保を目指すというものでした。
日本の25歳から44歳までの女性の就労率は、平成28(2016)年時点で72.7%、待機児童は令和2(2020)年4月時点でも全国に12,439人いました。
(参考 保育所等利用率の推移)
※保育所等利用率:当該年齢の保育所等利用児童数/当該年齢の就学前児童数
ここまでお読みいただきありがとうございました。(^^)/