何かあってからでは遅い!自治体の大事な仕事、認可保育園等への指導について
平成29(2017)年、兵庫県姫路市の認定こども園における不適正な保育による認定取り消しが、新制度後初の認定こども園の認定取り消し事例となりました。
今年の夏にはその裁判についてニュースになっていました。
「わんずまざー」元園長、再び有罪 給付金詐取で大阪高裁判決
極端に少ない給食などが問題になった姫路市の私立「わんずまざー保育園」(廃園)で、同市から給付費を詐取したとして詐欺罪に問われた元園長の女(49)の控訴審判決が25日、大阪高裁であった。長井秀典裁判長は、懲役2年6月、執行猶予4年とした一審神戸地裁姫路支部の判決を支持し、同被告の控訴を棄却した。
(中略)
同園は17年2月、兵庫県と姫路市の監査により、極端に少ない給食や保育士数の水増しが発覚。全国で初めてこども園の認定が取り消され、廃園になった。女は19年1月に詐欺容疑で兵庫県警に逮捕され、翌20年12月に神戸地裁姫路支部で有罪判決を受けたが、控訴していた。
「認定こども園を増やしたからだ」という批判もありますが、この園は、認定こども園だったからこんなことをしたのでしょうか。
そんなことはありません。一方で保育所の運営費制度から連綿と続く給付費の考え方(「子どもの最低基準を守る給付費なんですよ!」)をよく指導していなかったのではないかと思わざるを得ません。
施設を整備するのは、将来的に認可することを前提としてのことですから、整備の時点から事前に協議を重ねてせっかく建てた園を「認可しない」のはなかなか無いことです。
しかし、いったん認可して開園を認めると、その保育内容が継続的に確保されているか、役所は厳しく見守る責務がでてきます。
それは役所が園を信用していないという意味ではなく、役所として調査権が与えられ、認可・確認の取り消しも行い得るという非常に重い権限が与えられているからです。
この記事では、役所が園に行う園への「指導監督」について見ていきます。
1.「指導」という仕事
例えば、食品会社の従業員の方が、実は自分の作っている食品は健康的には疑問符が付くから自分では食べないんだということがあれば悲しいことです。
しかし、同じように役所の担当者として園を認可しながら、ここの園には自分の子は預けたくないというのはあってはならないことです。
一方、現実に保育内容がそれぞれ異なるなかで、個別の園の文化と一言で片付けてよいものか悩ましい事例を耳にすることも、市民に近しい窓口ではあり得る話です。
園は、どの園長先生もより良い教育や保育を行っていこうと日々尽力されていることは痛いほど理解しているつもりですが、役所としても、税金をお渡しして運営いただく以上、制度的にも質の担保を確認しなければなりません。
新制度の園はそれぞれ設置してよいという「認可」を受け、新制度の給付を受けてもよいという「確認」を受けています。
(認可・確認については以下の記事も参照ください。)
ということは、認可や確認をした役所は、その認可状態が守られているのか、確認したように現在も適切に運営が行われているのか、必要に応じて園に報告や帳簿書類の提出を求めたり、立ち入り検査ができるようになっています。
また、それは帳簿上のミスや保育中の事故などに関する話にとどまりません。
日々の保育で虐待や子どもの心に傷を残すようなことがなされていないか、保護者の苦情に真摯に対応して解決に向けた取り組みを行っているか、衛生面は大丈夫か、感染症対策は万全か、給食を提供している園ならば、その調理からその献立まで適切かなど指導する内容は多岐にわたります。
「指導」は役所にとって非常に重要な業務になります。
2.保育所への指導監査
児童福祉施設である保育所に対しては、役所が厚生労働省の定めにしたがい、年1回以上の実地監査を行います。
内容は多岐にわたりますが、大きく2点です。
(1)入所児童への支援が適正かということ、(2)園の運営は適正かということ、を監査します。
(1)入所児童への支援
①保育所保育指針を踏まえた適切な保育
②健康診断の実施や記録
③乳幼児突然死症候群(SIDS)の防止など事故防止対策
④給食材料の用意・保管
⑤給食日誌の記録
⑥三歳未満児の献立・調理・食事環境の配慮
⑦食中毒対策
⑧家庭での不適切な養育状況の発見・関係機関との連携 などです。
(2)園の運営
①予算・会計経理
②職員の処遇(手当の規定、労使協定など)
③職員確保・定着化の取り組み
④防災対策 などです。
3.幼稚園の運営
一方、幼稚園は、私学振興助成金の監査を公認会計士等から受けることが定められていること、また、著しい不適正な運営の場合には、都道府県等による改善命令の定めがありますが、基本的には自主的な運営にゆだねられています。
この保育所と幼稚園の指導監査における大きな違いは、どこからくるのでしょうか。
それは、保育所と幼稚園の「あり方」の違いから生じるものです。
保育所は、役所が責務とする保育の委託を受けているという「あり方」から、制度として、園を建設する初期投資(イニシャルコスト)の段階から税金で補助を受けることが可能であり、経常的な費用(ランニングコスト)も税金で一定保障されています。
一方、私立学校である私立幼稚園は、学校として「公の性質」(教育基本法)があることを前提としながら、初期投資は設置者の負担が基本であることから、創設者の建学の精神により私財をなげうって園を建設されているほか、経常的な費用も、役所から私学振興に関する助成金として税金が投入されているものの、制度の基本としては設置者負担を原則としているからです。
4.子ども・子育て支援新制度が始まって
しかし、平成27年度からの新制度の実施により、新制度の園は、経常的な費用について国が算定し、保護者からの「利用者負担額」を差し引いた残りは、「給付費」として税金が投入されることが法律で定められました。
これにより、新制度に移行した園であれば、保育所も幼稚園も認定こども園、地域型保育事業所もすべて、役所が給付を受けるに適切な教育・保育を行い運営をしているか調査する権限をもつこととなりました。(引き続き私学助成制度のもとにある幼稚園は除きます。)
役所は、子どもたちの安心な保育環境を保障するために、それぞれの施設類型のあり方を尊重しながらも、「運営基準」にのっとりこれまで以上にきめ細かな指導監査を行っていく必要があります。
(「運営基準」については、以下の記事で紹介しています。)
最後までご覧いただきありがとうございました(*^^*)
続きは以下の記事に続きます。