自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

「不適切保育」と保育の内容

 先日、「『虐待したい人なんていない』 保育現場、負の連鎖」の見出しで、保育現場についての記事が出ていました。 

「何でできないの」。駆け出しの保育士だった女性(29)は、2歳の園児を怒鳴った。生活発表会が迫っているのに、教えた歌や踊りの動きができていない。ぶざまな発表会にはできない。そんな焦りに比例して、園児に発する言葉は強くなった。

■厳しい職員配置基準、余裕奪う

 短大を卒業した2015年、就職先は生まれ育った西日本の中核市にある保育園を選んだ。楽器を演奏しながら行進するマーチングや、組み体操など行事やイベントが多いことで保護者から人気の園だ。

 感性を育み、情操の発達に努める。克服が可能な課題に取り組み、園児に一つでも多くの達成感や成功体験を味わってもらう。イベントの重要性は理解していた。

(中略)

 でも、園児の習熟は、思った通りに進まない。ベテラン保育士が思い描くレベルの動きになっていないと、若手の保育士は子どもたちの目の前で叱責された。

 女性は「子どもは大人をよく見ています」と話す。走り回る園児に注意しても、聞き入れてもらえないことがあった。「私のような新人を下に見るようになったからだ」と思う。教室から出して廊下に立たせ、「もう入って来なくていいよ」と告げた。

 うまく園児を導けない。上司に怒られる。園児への言葉が強くなる。負の連鎖が断ち切れず、子どもたちを怒鳴ることが日常茶飯事になっていた。

(中略)

 保育現場の過酷さは以前から指摘されてきた。その一つが、子どもの人数に対する職員の「配置基準」だ。保育士1人がみる園児の人数は0歳児で3人、1~2歳児は6人、3歳児は20人、4~5歳児は30人となっている。1~2歳児は半世紀以上、4~5歳児は基準が制定された1948年から一度も変わっていない。(以下略)

(出典:毎日新聞 令和5年5月19日 朝刊)

 ぶざまな生活発表会にはできない、ベテラン保育士の圧力もあり、つい子どもに声を荒らげてしまう、それも過酷な現場で職員の配置が足りないからだとの論調です。

 これをどう読んだら良いのでしょうか。

 今回は、「不適切な保育」と保育内容についてみていきます。

1.職員配置基準の改善

 記事のとおり、保育園などには、職員の配置基準があります。

 もちろん基準より多く職員を配置してもかまいませんが、園に国・自治体から入る給付費は、あくまでも配置基準に基づいて支払われますので、基本的には、配置基準以上の先生の給料は、園が身銭を切らなければなりません。

 なお、先生の勤続年数など、職員の状況や園の取り組みなどに応じてさまざまな給付費を加算するルールもあります。

 さまざまな発達段階の子どもがいる中で、また、少子化対策としても、職員配置は十分でないという指摘があり、少しずつ改善も進められ、国も今後の検討を進めているようです。

今後3年間で加速化して取り組むこども・子育て政策

2.全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充

(2)幼児教育・保育の質の向上~75 年ぶりの配置基準改善と更なる処遇改善~

○ 具体的には、「社会保障と税の一体改革」以降積み残された1歳児及び4・5歳児の職員配置基準について1歳児は6対1から5対1へ、4・5歳児は 30 対1から 25 対1へと改善するとともに、民間給与動向等を踏まえた保育士等の更なる処遇改善を検討する。

(出典:「こども・子育て政策の強化について(試案) ~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」令和5年3月 31 日 こども政策担当大臣)

www.cfa.go.jp

2.行事の指導はどのようにすべきなのか

 ところで、この記事では、園児の習熟が思ったように進まず、教えた歌や踊りの動きができていないと焦る保育士の苦衷が掲載されています。

 そもそも、こうした行事など、幼稚園や保育園ではどのような教育・保育がのぞまれているのでしょうか。

 行事の指導に当たっては、幼稚園生活の自然の流れの中で生活に変化や潤いを与え、幼児が主体的に楽しく活動出来るようにすること。なお、それぞれの行事についてはその教育的価値を十分検討し、適切なものを精選し、幼児の負担にならないようにすること。

(出典:文部科学省「幼稚園教育要領」)

 「幼稚園生活の自然の流れの中で」行うこと、主体的に楽しく活動出来るようにすること、幼児の負担にならないようにすることが、どの園も従うべき教育要領には書かれています。

3.インクルーシブな教育・保育が進められている

 たとえば、学齢期においては、小学校の特別支援学級や特別支援学校に在籍する児童のほかにも、小学校の通常の学級において、学習面や行動面で著しい困難を示す児童が、公立小学校で約1割いると小学校教員が捉えている現状もあります。(文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」2022年)

 保育園や幼稚園でも、インクルーシブ教育・保育が必要とされています。

 この記事に登場される先生は、ぶざまな生活発表会は見せられないと追い込まれたお気持ちだったようです。そんなセリフを読むと、この園は誰のために生活発表会をしているのかと、読んで辛くなります。

 そもそも追い込んでいるのは、施設長なのか、先輩先生なのか、それとも保護者なのでしょうか。

 マーチングや組体操も結構ですが、子どもたちも先生も辛いのならば、幼稚園教育要領に言うところの「主体的に楽しく活動」できていないわけで、少なくとも目の前の子どもたちには、今の保育内容が合ってないということかもしれません。

 それではいくら職員の人数を増やしても、やることは変わらず、子どもたちには要らぬ負担があるままの状態が残されてしまうことも想像されてしまいます。

4.まとめ

 個々の幼児の心持ちを理解して、興味・関心を踏まえて、流動的に学び・育ちの環境を用意して援助することが推進されています。

 園児たちの主体性を引き出して、楽しく活動することが、子どもも伸びて、笑顔も増えて保護者も喜び、先生方のやりがいにもつながることは、私以上に現場の先生方のほうがよくご存知のことなのだろうにと思います。

 職員配置の改善はもちろん大切ですが、それ以前の問題として、園の保育方針の違和感が、この記事の主眼を曖昧にさせてしまっているのではないでしょうか。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。(^^)/