自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

幼稚園と保育園のちがいとは(その2)

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 この記事では、「幼稚園と保育所のちがいとは?(その1)」に引き続き、幼稚園と保育所のちがいについて見ていきます。

kobe-kosodate.hatenablog.com 

1.「教育」の位置づけ

 幼稚園において、「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであり、幼児期の特性を踏まえ、環境を通して行うものであることを基本とする」(『幼稚園教育要領』)とされているのに対し、保育所も、「環境を通して乳幼児期の子どもの健やかな育ちを支え促していく」、「乳幼児期にふさわしい経験が積み重ねられていくよう丁寧に援助する」(『保育所保育指針解説』)などとされています。

 また、幼稚園では『学校教育法』において幼稚園の目標が5つ示されており、いわゆる五領域(「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」)が提示されていますが、保育所においても『保育所保育指針』において、子どもの保育の目標の中で前述の五領域が示されており、教育目標について整合がとられています。

 なお、平成30(2018)年度から施行・適用された『幼稚園教育要領』と『保育所保育指針』の改正においては、どちらにも「育みたい資質・能力」として「知識及び技能の基礎」、「思考力・判断力・表現力等の基礎」、「学びに向かう力、人間性等」の三つが提示されたほか、小学校教育との円滑な接続として「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(「健康な心と体」「自立心」「協同性」「道徳性・規範意識の芽生え」「社会生活との関わり」「思考力の芽生え」「自然との関わり・生命尊重」「数量・図形、標識や文字などへの関心・感覚」「言葉による伝え合い」「豊かな感性と表現」)が示されています。

 加えて、保育所については「幼児教育を行う施設」との位置づけが明確化されました(幼稚園は、もとより学校教育法に定める幼児教育を行う「学校」です)。

 実は、「教育と保育をするところが『認定こども園』である」として、新制度で「認定こども園」が推し進められるにしたがい、「保育所では教育が受けられない」という誤解が広がりました。法律の解釈は別の場にゆずりますが、幼稚園も「幼児を保育する」ところで、「幼児の保育をつかさどる」のが幼稚園教諭の業務となっており(『学校教育法』)、幼児に対する活動すべてを「保育」と総称しています。これについては、先述の柏女霊峰氏も次のように述べています。

 「教育」と「保育」という表現は、それぞれが行われる舞台の違い(「学校」か「児童福祉施設」かの違い)というべきであり、すでに見たとおり、目的と方法が同じである以上、内容そのものには違いはないといってよい。

『子ども・子育て支援制度を読み解く その全体像と今後の課題』誠信書房 

2.私立保育所と私立幼稚園の違い 

 これまで、保育所と幼稚園の制度上の違いを見ていきました。それに加えて、私立の場合の保育所と幼稚園の違いを見ていきますと、より違いが鮮明になってくることと思います。

(1)役所(=公権力(おおやけ))との立ち位置

私立保育所児童福祉施設

 運営は主に「社会福祉法人」が担っています。といいましても、学校法人立はもちろん、株式会社立や個人立などに対し、門戸を閉ざしているわけではありません。

 ただ、やはり「社会福祉法人」が設置して運営している私立保育所が多いですので、そこに焦点をあてますと、『社会福祉法』という法律にのっとり、「社会福祉サービス」を提供するのが社会福祉法人です。

 保育所での保育が必要な子どもには、役所が保育を行う責任があります。ですから、役所は「保育の実施」を、社会福祉法人(私立保育所)に「委託」しているのです。ですから、当然、チェックも厳しくなされることになり、年に一回以上、役所の人間が出向いて、法人や園に対して「指導監査」を行います。保育内容から給食の提供内容、もちろん会計状況など事細かに指導が入ります。その指導内容は、神戸市では市のホームページ上にも一部公開しています。

私立幼稚園(私立学校)

 運営は主に「学校法人」が担っています。『私立学校法』という法律に基づきます。

 私立学校は、私人が寄附した財産などによって設立・運営されることを原則とするものです。私財をなげうって創立者の「建学の精神」に基づいて「独自の校風」を築いてきたという特性に根ざして、所轄庁(公)による規制ができるだけ制限された法制度とされています

(2)経営の考え方

私立保育所児童福祉施設

 行政から支払われる委託費(保育が必要な子どもを保育する責務はもともと自治体にあり、その保育実施の委託を受けているということ)によって、保育所は役所がすべき仕事を「委託」されてやっているわけですので、児童数が激減しない限り、役所から受けられる費用によってある程度運営が安定しているという側面があります。だからこそ、より充実した保育を行うからといって上乗せして利用料を徴収することは、役所に無断ではできないことになっています。

私立幼稚園(私立学校)

 地方によって都道府県からの私学振興に関する助成金はあるものの、保育所よりも公的な助成金補助金は少ないのが一般です。園によっては、高額の費用を保護者から求めるなどしつつ、独自の付加価値を付けた教育を行うなどして差別化を図ったりしています。それぞれ園の方針で、地域や保護者の信頼を営々と築いてこられた努力の結果がいまの各園の状況にあらわれているといえます。

 その他、細かいことでは、たとえば、園舎が2~3階建ての場合、幼稚園では一階には年長(5歳)のクラスの教室が設けられていることが多いです。これは、教室と園庭を一体として教育を行うという観点からきています。一方、保育所では一階には乳児など小さい子どものクラスの部屋があることが多いです。これは、避難しなければならなくなったときに、自分の力で逃げることが難しい乳児などを少しでも避難させやすく考えてのものです。

3.まとめ

 このように、幼稚園と保育所は、単に「文化の違い」という言葉では言い表せないくらい、それぞれで発展してきたことが見えてきます。