自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

「隠れ待機児童」とは何か

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 「隠れ待機児童」の話題が新聞に載っていました。

神戸市長選 市政のギモン 子育て
 では「待機児童」とは一体何なのだろうか。定義では、主に立地などの選択肢を広げて入所を希望するが、保育所に入れない児童のことだという。ここには国の基準で「特定の保育所を希望する」人は算入されない。つまり希望の保育所を絞っていて入れない、いわゆる「隠れ待機児童」が存在する。
 その数え方は絞る数などにより、各自治体で異なる。保育環境、自宅や職場との距離、保育料などで、どこまでより好みするか濃淡はあるが、こうした隠れ待機児童の数も調べてみた。
 神戸市では「入所希望で入所できていない児童数」のうち、「待機児童」を差し引いた1016人が該当。実に待機児童(11人)の92倍だ。 
(出典元:神戸新聞NEXT 2021/10/06 5:30

 今回は、いわゆる隠れ待機児童とはどんなものかを確認します。

1.待機児童とは

 待機児童とは一般的に「保育所に入れずに入所を待っている子ども」を指す言葉として使われています。
 また、「隠れ待機児童」とは、新聞記事では「希望の保育所を絞っていて入れない子ども」だとしています。
 たしかに国の示す待機児童の定義でも、「他に利用可能な施設等があるにもかかわらず、特定の施設等を希望される方」はカウントから抜くこととされており、 さまざまな意見の中でその是非が課題視されています。

(参考:保育所等利用待機児童数調査に関する自治ヒアリング資料)
保育所等利用待機児童数調査に関する自治体ヒアリング 資料
※この厚生労働省ホームページの「参考資料2 保育所等利用待機児童の定義」を参照

 ここでは、
 (1)「保育所」は具体的に何を指しているのか
 (2)「待っている」とはどういう状況か
 を見ていきます。

2.ここで言う「保育所」とは

 小学校に入学する年齢までの子どもたち(いわゆる「就学前児童」とか「0歳児から5歳児」と言われます)が毎日通園する園・施設・サービスには、主に公立・私立をあわせて認定こども園(①朝〜夕方の利用枠、②朝〜昼過ぎの利用枠)、幼稚園(①朝〜夕方の利用〈夕方は預かり保育利用〉、②朝〜昼過ぎの利用)、保育所(園)・小規模保育事業所(=朝〜夕方の利用)のほか、児童発達支援事業所(いわゆる児童デイ)などがあります。
 ほかに認可ルールとは別の枠組みですが、企業主導型保育事業所などもあります。
kobe-kosodate.hatenablog.com
kobe-kosodate.hatenablog.com
 そのうち、「待機」として取り上げられるのは、認定こども園の①朝〜夕方までの利用枠と、保育所(園)・小規模保育事業所(=朝〜夕方までの利用)に申し込んでいる人であり、これらが待機児童が入れずに待っている「保育所」(これらを便宜上「認可の保育枠」と呼ぶことにします)になります。

3.「待っている」とは

 では、「待っている」人をどう把握すればよいでしょうか。
 「申し込んで入園までたどり着いていない人全員に決まっている」との言葉が聞こえてきそうですが、話はそう単純ではありません。
 カウント上は真逆に作用する2つの視点を挙げます。

(1)実はまだ入園する予定ではない(待っていない)

 育児休業は子どもが1歳になるまでですが、育休後に保育所等に入れない人の救済として、保育所等に入れない証明書があれば、育児休業を延長できることになっています。
「育児休業」の延長を予定されている労働者・事業主の皆さまへ
厚生労働省ホームページより)
 これを最大限に活用(?)し、「認可の保育枠」を申し込む際に、現状は枠いっぱいで入れない園を選んで申し込もうとされる保護者の方に、私も窓口で何人もお会いしてきました。
 本当に保育所等に入園させてすぐに復職したい方が普通におられますので、もちろん誰もがそうではありません。たしかに年度途中ですでに保育所等がいっぱいの状態の中、年度途中で1歳になっての保育所保留→育児休業延長は、残念ながら散見されるパターンです。
 子どもを2人授かりたいと出産を計画されるご夫婦からよくお聞きするのは、一人目の子どもの生まれたあと、1年をおいて次の子を出産されるパターンです。
 そうなりますと、誕生月によっては次の出産計画が近づいていて、中途半端に復職するより保育所等に入れないことにして育児休業を延長しつつ給付金で生活をつなぎたいという心境になる人があっても、それをことさら咎める話なのかは何とも言えません。
 ただ、そのような数が「隠れ待機児童」と言われる数には混じっており、それが税金を使って保育施設を新たに建設してまで対処すべき数なのかということです。
 本記事で対応すべき「隠れ待機児童」としている1,016人のうち、「4月1日に育児休業を取得されており、保育所等へ入所できた際に復職する意思が確認できない方」は457人おられます。それをどうみるかは、育休制度も合わせて冷静な検討が必要かもしれません。
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/43520/shiryo2.pdf
(神戸市ホームページより)

(2)どこかに通えている子どもは除かれる

 次の視点は、待機児童数は、認可外保育施設や家に居て「認可の保育枠」に入園できるのを「待っている」人であって、やむなくどこかの園(他の「認可の保育枠」や企業主導型保育事業所など)に通い始めた子どもは、転園を希望していてもカウントされないということです。
 たしかに、どこまでも保護者のニーズに合わせて整備しなければいけないのならば、特定の園が魅力的でそこに希望が集まればその園を増改築するしかなくなります。
 しかし、そんな土地もなかったりしますし、そこまで保育の提供を保障しきるには学校のように校区を設定してあてがうほかありません。それでは園の特色で保護者が選ぶことができなくなり、結果として保護者がのぞむ保育を受けられないということになります。
 国も、保育枠の確保は、特に都心部ではまとまった土地も確保しづらいことなどから、小規模保育事業所やステーション事業(保護者は駅前のステーションまで子どもを送迎する。園はそこからバスで郊外の広い園まで釣れていく)、企業主導型保育事業所など、それこそ税金を投入してさまざまな保育枠を推進しています。
 一方、これらの中には認可保育所(園)や認定こども園よりは職員の資格基準(保育士配置の割合)がゆるいものがあります。職員の研修面も濃淡があります。また、2歳までの施設もあり、その場合は3歳以降に再度保活をしなければなりません。
 また、別の視点として、各自治体は「子ども・子育て支援事業計画」で、住民アンケートに基づいて潜在的保育ニーズも含めたニーズを把握して、その上で認可の保育枠を整備しています。
 事業計画上、枠が足りているのであれば、この待機は何なのかという分析も必要です。
 この少子化の中でも子育て世代が引っ越してくる街と、人口流出している街がでてきていますが、待機児童数の変動を子育て家庭の施策満足度とセットでとらえることが、待機児童数が「施策の成果」か「住民の妥協の産物」なのか判断する目安となるかもしれません。

4.まとめ

 「隠れ待機児童」をどのようにみるかは人それぞれに見方があろうかと思います。
 そもそも「国定義の待機児童」も自治体間の状況を横並びに確認する一つの手段であって、それが何人だからその人数分だけを施設整備がんばりますというような指標でも元々ありません。
 ですので、この待機児童数に一喜一憂したり、「隠れている数があるんだぞ!」と鬼の首を取ったかのようにことさら荒らげる話でもなく、分析の一つの材料として他の指標と合わせて冷静に検証する必要があります。
 たとえ待機児童がゼロであれ、子どもの成長発達や家庭の状況によって、数値上の受け入れ枠を用意しただけでは解決しないことはいくつもあります。濃淡はあれ、窓口では、入れずに困っている保護者が来られ、どうしていったらよいか悩みをお聞きし、最善が無理でも次善策がないか、お話をお聞きして対応する日々は続くものと受けとめています。

 ここまでお読みいただきありがとうございました(*^^*)

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子育て支援サービスとは(その2)

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子育て支援サービスについて、以下の記事に引き続きまとめています。

kobe-kosodate.hatenablog.com

③日々通園して療育を受けたい

「療育」とは、医療の「療」と教育の「育」を組み合わせたものであり、障害や疾患のある子どもに対するサービスには、医療と教育の両方をバランスよく提供する必要性があることを意図した言葉である。

(『児童家庭福祉論 児童や家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度』全国社会福祉協議会

保育所や幼稚園、認定こども園の一部で障害児の受け入れが行われている一方、専門的療育の機能を持ち、発達の遅れや偏り、障がいのある子どもの通所を対象とした施設として、規模の大きい児童発達支援センターと、小規模で地域密着型の児童発達支援事業所があります。

どちらも障害児に対し、日常生活における基本的な動作を指導し、知識・技能を与え、集団生活への適応を訓練するなど必要な支援(医療型の場合、治療も含む)を行うものです。

(1)児童発達支援センター

児童発達支援センターは、センター的な機能として、障がいの種類に関わらず適切なサポートが受けられるよう、関係機関等と連携を図りながら重層的に支援する役割も持っています。

すなわち、日々通園する子どもやその家族に対するサポートのみならず、施設の有する専門機能を活かし、地域の相談対応や、他の施設・事業所への援助や助言も行います。

(2)児童発達支援事業所

児童発達支援事業所は、できる限り身近な場所で支援を受けられるよう、地域において、日々通園する子どもやその家族に対して身近な療育の場を提供するものです。

④スポットで保育を受けたい

パート就労や非常勤勤務等雇用形態の多様化に加え、さまざまな保育ニーズにきめこまかく対応できるよう、これまで見てきた日常的な利用のほか、非定期的な利用についても制度が徐々に拡充され、現在に至っていますが、地域によってはまだ数やサービスが不足している現状です。

(1)教育・保育施設等(再掲)

パート就労や用事、育児疲れ等、さまざまな保護者の必要性に応じて、たとえば週に数日など必要な事由に応じた期間を保育します。

(2)病児保育施設

子どもが病気にかかり保育所等で他の児童との集団生活が困難なときに、保育所等に代わって保育します。

(3)ファミリーサポートセンター

「子育ての応援をしてほしい」子育て家庭と「応援をしたい」地域の人が前もって会員登録しておくことで、保育所等や学童保育の迎えに家族が間に合わない時間を代わりに保育をしたり、保護者の急な用事や病気のとき等に代わりに世話をするといったサポートを行います。

(4)児童養護施設乳児院・母子生活支援施設

子育てリフレッシュステイ事業として、保護者の育児疲れや病気・出産の場合等幅広い理由での一時的な保育を行っています。宿泊を伴うショートステイと、一日のうち一定時間保育するデイサービスがあります。

⑤放課後の居場所・療育の提供を受けたい

働く女性の増加や子どもを取り巻く環境の変化により、子どもたちの安心・安全な居場所づくりがより一層必要となっており、留守家庭の小学生を対象として学童保育がなされています。また、療育としては放課後等デイサービス事業所があります。

(1)学童保育施設

留守家庭の小学生を対象に、児童館や小学校等に設置した学童保育コーナー、地域で自主的に運営している学童保育所を、家庭のように過ごすことができる場所、伸び伸びと遊べる場所として提供しています。

(2)放課後等デイサービス事業所

学校教育と相まって障害児の自立を促進するとともに、放課後や夏休み等における居場所づくりを推進することを目的とする事業所です。

障害児の保護者の仕事と家庭の両立、親の一時的な休息のサポートを行う観点も踏まえつつ、発達に必要な訓練や社会交流の促進その他のサポートを行います。

⑥親子で利用したい

ここまでは、「子どもを預かる」サービスが中心でした。しかし、2歳までの子どもで保育所等に通う子どもは全国的に36.6%で、3歳までの子どもの3分の2ほどは、ふだん家で家族と一緒にいる、いわゆる「在宅育児家庭」であることが、厚生労働省の「保育所等関連状況取りまとめ」(平成30(2018)年4月1日)で示されています。

国は、これまでもさまざまな計画を立てて少子化対策に取り組んできていますが、「子どもを預かる」サービス以外にも力を入れています。

その代表的なものが地域子育て支援拠点であり、たとえば児童館や地域子育て支援センター、保育士等養成大学があります。

(1)児童館

主に午前中は、子どもや親が自由に利用できる地域子育て支援拠点として、乳幼児の親子に対し、登録制や自由参加型の行事・イベントを実施しています。

また、学校の放課後には学童保育を行っています。そのほか、神戸市には拠点児童館があり、楽しく子育てをするための保護者向け講座や専門職向け講座を実施する等しています。

(2)地域子育て支援センター

地域の子育て情報の収集・提供や、子育てサークルへの支援を行っているほか、子育てに関する相談に応じ、講座・行事等も実施しています。神戸市では、区役所や一部の保育所認定こども園に設置されています。

(3)保育士養成校の指定を受けている大学等

保育士養成校の指定を受けている市内の大学等に、乳幼児が自由に遊べるスペースを設け、大学の学生が実践の場として関わりつつ、子育て中の親子が集える場所の提供を行っています。

まとめ

以上は、「神戸市子ども・子育て支援事業計画」を基に障害児通所支援等を加えてリストアップしたものです。

ほかにも自治体によってさまざまなサービスやサポートがあるほか、それぞれの名称も異なっていると思います。

また、そのほかにも、インフォーマルな地域主体のさまざまな支援があります。

その点をご了承いただきながら、参考にしていただければと思います。

認定こども園とは

 「認定こども園」というものが日本中に増えています。

 もともとは幼稚園や保育所(保育園)が多かったのですが、平成27年度からの子ども・子育て支援新制度を機に、幼稚園や保育園から認定こども園に移行する園が増えました。

 ここてまは、認定こども園について制度の基本的なところを見ていきます。

1.「認定こども園」制度は平成27年度に改まった

 認定こども園は平成18(2006)年に始まった園であり、平成27(2015)年の子ども・子育て支援新制度により大幅に制度改正されました。これまでの幼稚園と保育所、どちらに通園する家庭の子どもも利用できるような園です。

認定こども園は、幼稚園でも保育所でもない新たな第三の施設類型を設けるものではなく、むしろ就学前の教育・保育に関する多様なニーズへの対応に求められる機能に着目し、幼稚園や保育所等がその機能を保持したまま認定こども園の認定を受ける仕組み

(『保育所運営ハンドブック 平成29年版』中央法規)

2.認定こども園には4通りある

 ひとくちに認定こども園といっても4通りあります。

(1)幼保連携型認定こども園

(2)幼稚園型認定こども園

(3)保育所認定こども園

(4)地域裁量型認定こども園

(1)幼保連携型認定こども園

 学校(幼稚園)と児童福祉施設保育所)としての役割が一体となった、単一の園です。

(2)幼稚園型認定こども園

 幼稚園(学校)に保育所機能(保育所認可は受けていないが、保育所のような機能を満たすための敷地部分)を足した園です。

(3)保育所認定こども園

 保育所児童福祉施設)に幼稚園機能(幼稚園認可は受けていないが、幼稚園のような機能を満たすための敷地部分)を足した園です。

(4)地域裁量型認定こども園

 幼稚園機能(幼稚園認可は受けていないが、幼稚園のような機能を満たすための敷地部分)と、保育所機能(保育所認可は受けていないが、保育所のような機能を満たすための敷地部分)を足した園です。

 ここで、「幼稚園や保育所とはそもそも何か?」については、以下の記事を参照ください。

kobe-kosodate.hatenablog.com

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3.認定こども園の一日の生活イメージ

 認定こども園は、幼稚園に通うような子どもも保育所に通うような子どももどちらも通園できる園です。具体的にはどういうことか、一例としてある園の一日の生活を下図で示します。

 専業主婦(主夫)家庭やときどきのパート就労の日だけ預かり保育が要るような家庭は、基本的に昼過ぎまでが通常の保育時間です(図の「保育時間①」)。

 この場合は、教育標準時間認定(1号認定)を受けて利用します。

 一方、共働きでどちらもフルタイム就労の家庭や、親族の介護、看護、その他保育が必要な認定を受けて(保育認定:2号認定や3号認定)利用する場合は、図では、「保育時間②」になります。

 認定こども園では、それぞれ、教育標準時間認定の子どもは定員何人で、保育認定の子どもは定員何人ですよ、と分けて定員設定しており、その範囲で、幼稚園に行くような昼過ぎまで(+時々の預かり保育)の家庭も、保育所に行くような夕方まで預けたい家庭も、利用できるようになっています。

(図:認定こども園での一日の生活例)

保育時間①

(1号認定)

 

保育時間②

(2・3号認定)

早朝預かり(希望者のみ)

7:00~

早朝預かり(希望者のみ)

7:30~

順次登園・自由遊び

順次登園

8:30~

日課活動

9:00~

日課活動・保育

弁当(給食の曜日もあり)

12:00~

給食

自由遊び

13:00~

自由遊び

順次降園

午後預かり(希望者のみ)

13:30~

お昼寝・おやつ・自由遊び

~18:30

順次降園

~19:00

夕方預かり(希望者のみ)

 

 ここまでお読みいただきありがとうございました(*^^*)

子育て支援の施策を作る人が知っておくべきこと。そもそも「子ども・子育て支援」の定義は?

「子ども・子育て支援」という言葉があります。

昨今、子育て支援としてそれぞれの自治体がさまざまな施策を打ち出していっていますが、この記事は、この言葉の定義的なところから、子ども・子育て支援の方向性についてまとめています。

1.「子ども・子育て支援」の定義 

 『子ども・子育て支援法に基づく基本指針』には、「子ども・子育て支援とは、保護者の育児を肩代わりするものではなく、(中略)親としての成長を支援し、子育てや子どもの成長に喜びや生きがいを感じることができるような支援をしていくことである。このような支援により、より良い親子関係を形成していくことは、子どものより良い育ちを実現することに他ならない」とあります。

 この文章を、分解して図示すると次のようになります。

「子ども・子育て支援

→「親の成長支援」

→「より良い親子関係づくり」

→「子どものより良い育ち(子どもの最善の利益)の実現」

2.あるべき施策の方向性

「子どものより良い育ち(子どもの最善の利益)の実現」に向いた「親や社会(労働環境など)のニーズ」は満たすように役所として推しすすめるべきであり、「より良い親子関係づくり」に矢印が向かないような「親や社会のニーズ」は相手にしないというのが、「やるべき子ども・子育て支援かどうかの判断基準」ではないでしょうか。

平成27年から始まった「子ども・子育て支援新制度」のメリットとは

平成27年度にはじまった「子ども・子育て支援新制度」。

幼稚園でも長時間子どもを保育するような「幼稚園の認定こども園化」が進んだり、保育所より小さな規模の「小規模保育事業所」が増えたりと、待機児童解消に向けた、供給の確保が主目的のように批評されていますが、実際のところどうなのでしょうか。

この記事では、制度設計にたずさわった人間として実感した、この「子ども・子育て支援新制度」のメリットについてまとめています。

1.市町村が「公・私・幼・保」とつながった

新制度で役所がやらねばならないこと、できることは格段に増えました。

また、これまで都道府県の所管であった私立幼稚園を利用する子どもについても、新制度に移ってきた私立幼稚園の利用にあたっては市町村で支給認定をすることとなりました。

加えて、各自治体の首長(市長や町長、村長)とは別に、それぞれの地域の教育委員会が所管している公立の幼稚園の子どもについても、市町村が支給認定をすることになりました。

これで、すでに市町村が所管している公立・私立保育所の保育を加えると、市町村で支給認定事務をしている部署が、地域の「公・私・幼・保」をある程度、一元的に見渡せる素地ができてきたということになります。

これは、戦後これまでの幼稚園教育行政・保育所保育行政上なかったことではないでしょうか。

仮に、これまでは「どこかの誰かが手をさしのべているだろう」として、「うちの所管ではないですね」「うちでは受けられないですね」と、ほかの組織や国や県の電話番号をお伝えして、対応をしてこなかったものがあったとしたら、もうそういう状況ではなくなりつつあるということです。

子どもの権利や教育の平等を考えたとき、さまざまな境遇の家庭・子どもについて、役所は全児童を視野に入れて考えていかなければならない。いや、それが役所にやる気と能力、そして園や地域の協力があれば、できる土台ができつつあるのだといえるのではないでしょうか。  

たとえば、障がいのあるお子さん。たとえば、医療的ケアの必要なお子さん。多額の入園金を支払えない家庭のお子さんなど、それぞれの状況で、その家庭が共働きであったり、親の介護で大変であったり、ひとり親で親族の助けを得られない場合など、そのほかさまざまな家庭の状況があります。それに対して、あなたの地域ではどこで教育を受けさせてくれますか。どこで保育をしてくれますか。

市町村は、もう都道府県や国のせいにできなくなりつつあるのではないでしょうか。

なぜなら、市町村が「支給認定」するからです。

保育が要ると認定しています。教育を受けられると認定しています。

認定する以上、それだけの受け皿を用意しなければなりません。

きちんと『保育所保育指針』や『幼稚園教育要領』を守っている園を用意しなければなりません。

そして、さまざまな「訳ありの家庭」(園への新制度の説明会の際に、園側からこのようなフレーズを使われたこと自体が私はショックでした)でもきちんと受け入れて、親子ともども育ちを根気よく見守ることができる園を用意しなければならないのです。

また、一方で役所は、園の特色を重んじてよく理解して、保護者のニーズにあわせて相談に応じ、公正に情報提供を行う体制も必要であり、これも大変な任務です。

2.市町村の責任が明確化された

以上のようなことから、ボールはすでに国から地方に投げられています。

もはや、公立がどうとか私立がどうとか、社会福祉法人や学校法人がどうで株式会社立ならどうだとかそんな白黒の議論ではなく、「事業計画で計算している受け皿は、さまざまな意味で公共的責任がある」ことを、まず事業計画を策定している役所自身が認識しなければなりません。

財政面、制度面でまだまだ国に改善を要望すべきことは多々ありますが、基本的に国は2分の1、都道府県は4分の1、それぞれ費用を出すから(費用を出すといってももとは国民の税金ですが)、あとは市町村の責任でがんばれというのがこの新制度です。

国の新制度を案内するパンフレットなどには待機児童解消などと並べてほぼ必ず「市町村が実施主体 ~市民に身近な市町村が実施主体です~」とあります。

これは、単に法律を読みくだしただけではありません。

これまでと何かしら違うから国は何度も書いているのです。この言葉の重みを役所は知らねばなりません。

もちろん、国の方針に沿って全国一律で展開していくということは大切なことです。

しかしこれだけ地方自治が進み、最終的な責任を国はとってくれるわけではありません。

もうボールは国から自治体に渡されているのです。

それに、そもそも「教育」も「保育」も、地方は国の仕事を下請けしているわけではありません。

明日の自分たちの地域をどういう方向に向かわせることが、子どもたち、ひいては子どもたちの成長後の社会の幸せにどうつながっていくのか。

役所は真剣に悩んで悩みぬいて施策を練り上げていく取り組みを今後も続けていかなければならないと思います。

子育て支援サービスとは(その1)

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原「因」を知る「心」と書いて「恩」と読みます。

今の私があるのは誰のおかげ(原因)かと考えると、親はもちろんのこと、たくさんのお世話になった人達のおかげであることに気づきます。

その中でも大切なスタート期の関わりが、幼稚園や保育所など子育て支援サービスに携わる先生方との関わりでしょう。

地域にはさまざまな子育て支援がありますが、それは、子どもや子どもをとりまく家庭環境が多岐にわたるからです。

この記事では、そんな子育て支援サービスについてまとめています。

子育て支援のニーズ

子育て支援のニーズを大きくまとめるならば、

大前提として、①母子共に健やかでありたい保健ニーズがあります。

また、②共働きやひとり親家庭等を理由として保育を受けたい、加えて小学校の入学に向けて幼児教育を受けたい、発達が遅れていたり、障がいがあったりして、療育を受けたいといった日常的な通園のニーズもあります。

次に、③毎日ではないが、用事や下の子の出産、育児のリフレッシュ、親の病気等の緊急時などスポットで保育を受けたいニーズ、また、④小学校に入学してから、放課後の居場所の提供を受けたい、療育を受けたいニーズもあります。

そのほか、⑤在宅で育児をしているなかで、育児のリフレッシュや子どもの成長のために、子連れで参加・利用したいニーズもあるでしょう。

そのような家庭の子育て支援ニーズに対応するために、国は法律を作り、支援のメニューや活用する園や事業をリストアップしています。

平成27(2015)年、それら子育て支援の土台となる制度面の大改正がありました。この子ども・子育て支援新制度のスタートによって、年金、医療、介護とともに、「子育て」が社会保障の柱として恒久的な財源(税金)で安定的に実施されることになりました。

支援や援助といっても、それには制度化されたフォーマルなサービスと地域の支え合いといったインフォーマルなサポートがあります。ここでは子ども・子育て支援法と児童福祉法に定める子育て支援・通所支援の代表的なフォーマル・サービスを挙げていきます。

①母子共に健やかでありたい

母子保健は、「次世代を担う子どもが心身ともに健やかに育つことができる地域社会を実現する」ことを目的に、サービス・事業の基本的な担い手として市町村保健センターが、地域住民への直接的な支援拠点となっています。

市町村保健センターでは、妊娠する前からの切れ目のない支援を目標に、母子保健法を基に、母子健康手帳の交付、妊婦健康診査の助成、新生児訪問、乳幼児健康診査といった妊産婦や乳幼児に対するサポートのほか、思春期保健として、妊娠・出産を通した命の大切さの啓発授業や、思いがけない妊娠への支援等も行っています。

子ども・子育て支援法にも、地域の子育て支援として母子保健のサポートがリストアップされており、例えば、養育支援訪問は、育児ストレス・産後うつ状態・育児ノイローゼなどによって、子育てに対して強い不安や孤立感を抱える養育者の家庭にホームヘルパーを派遣する取り組みであり、実地に、家事・育児に関する援助や助言を行っています。

②日々通園して幼児教育・保育を受けたい(1)~認定こども園・幼稚園・保育所

日々通園する小学校入学前の子どもに教育・保育を提供するものとして、教育・保育施設地域型保育事業所があります。教育・保育施設とは、認定こども園、幼稚園そして保育所です。

幼稚園は親の就労等の状況によらず主に平日昼過ぎまで保育し、保育所は親の就労等保育が必要な状況に応じて保育が必要な範囲で保育することを基本としています。

ここで重要なことは、保育所が、「地域の子育て家庭に対する支援等を行う役割を担う」と保育所保育指針に大きく定められているのに対し、幼稚園も、幼稚園教育要領に「地域における幼児期の教育のセンターとしての役割を果たすよう努める」こととされ、どちらも単なる幼児向け経営体という枠ではなく、あくまで公共的な社会資源として地域で重要な役割を担っている点です。

詳しくは、以下を参照ください。 

kobe-kosodate.hatenablog.com

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一方、認定こども園は平成18(2006)年に始まった園であり、平成27(2015)年の子ども・子育て支援新制度により大幅に制度改正されました。これまでの幼稚園と保育所、どちらに通園する家庭の子どもも利用できるような園です。

詳しくは、以下を参照ください。

kobe-kosodate.hatenablog.com

②日々通園して幼児教育・保育を受けたい(2)~地域型保育事業所など

これまでも認可保育所以外の保育資源として、地域によってさまざまな小規模保育施設や保育ママといわれるもの、赤ちゃんホーム、家庭託児所等が設けられてきました。

子ども・子育て支援新制度では、それらも国で認可ルールを設けた一定の質を確保したものにしようと、地域型保育事業所という類型をスタートさせ、それに移るよう推し進めました。

地域型保育事業所は、地域課題としての「保育所等の待機児童」と「過疎化」のいずれにも対応しようとするものです。

待機児童は、地域に散在していることが多く、利便性の良い駅の近くに保育所等を建設することが一般的に解決策となり得ますが、交通至便な場所は概して大きな土地が確保できない等の問題があります。

そこで、割合小さな敷地でもつくることができる地域型保育事業所の出番となるのです。

一方、子どもの数が減少している地域では、クラス運営が成り立たないような少人数クラスになった幼稚園と保育所認定こども園に統合することや、地域型保育事業所で特例的に小学校入学まで保育を認めることで、適切な育ちの環境としての集団保育を続けることを可能としています。

ここまでの保育所や地域型保育事業所は認可施設・認可事業ですが、そのほかにも地域にはさまざまな認可外の保育施設があります。

「認可」については、以下を参照ください。

kobe-kosodate.hatenablog.com

加えて、平成28(2016)年、国は企業主導型保育事業をスタートさせました。これは、保育する人のうち、半数未満は保育士資格を不要としながら、おおむね保育所並みの基準を満たすことを条件に、国から助成金を受けて従業員や地域の子どもを保育するものです。

認可外保育所ではありますが、事業者に対して国から助成があるため、保育料は一般の認可外保育施設よりは安い傾向にあります。

そのほか、待機児童が多い地域を中心に、自治体独自の基準を満たす園を自治体が認証するなどして「認証保育所」などの名称で運営しているものもあります。