幼保一元化のこれまでの取り組みとは
子ども関連施策の充実に向け、国が検討中の「こども庁」創設が先送りになったというニュースが、新聞の紙面を賑わしています。
これによって幼保一元化は先送りだと報道されていますが、これらをどう見ればよいのでしょうか。
【独自】こども庁創設、省庁調整に時間要し23年度以降に先送り…「幼保一元化」当面見送る
政府は、子ども政策を一元的に担う行政組織「こども庁」の設置について、2023年度以降に先送りする方向で調整に入った。関係省庁の法律の分担や事務の移管業務の調整が難航しているためで、当初予定していた22年度中の設置は難しいと判断した。
引用元:読売新聞オンライン(2021/11/20 15:00)
今回は、幼稚園と保育所の制度や所管を一つにするということについてみていきます。
なお、前提となる幼稚園と保育所のおおまかな制度やその比較については、以下に掲載しています。
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1.これまでの経緯
(1)旧制度の認定こども園ができるまで(平成20年頃まで)
幼稚園と保育所の違いを踏まえつつも、幼保を一元化するのはどうかという話は古くからありました。
実際に、制度は制度として、現場として幼保一元化をしようという取り組みも、地域でも試みられてきました。
国では、首相の諮問機関である臨時教育審議会が昭和62(1987)年に答申を出しました。
「幼児教育の時間は基本的に4時間、保育に欠ける児童については必要な措置を講じる必要があるという異なる二つの社会的要請がある」とニーズを分けてとらえた上で、
「3歳以降については、教育内容は保育形態により相違はあるとしても、幼児教育の観点から、両者の特性、地域の実情を踏まえつつ、共通的なものにすることが望まれる」とし、幼稚園と保育所の教育の内容の共通化を図りつつも、「幼稚園・保育所はそれぞれの制度の中でその充実を図る」ものと確認されました。
そんな状況の中、幼保一元化の話が、制度上大きく動いたのは、三位一体の改革といわれる小泉首相の規制改革の議論においてでした。
平成16(2004)年3月、政府は「規制改革・民間開放推進三か年計画」を閣議決定し、「幼稚園・保育所の一元化」の取り組みとして、「就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設」を平成18(2006)年から本格実施する方針を固めました。それが「認定こども園」です。
(2)認定こども園とは
認定こども園は、幼稚園と保育所以外の別個の第三の類型を作りたいということではなく、幼稚園か保育所かという二者択一ではない子育てニーズの複雑化に対応するために創られたものです。
出典元:『保育所運営ハンドブック 平成29年版』中央法規
幼稚園や保育所が都道府県から「認定こども園」になるための「認定」を受けると、幼稚園なら従来の幼稚園の役割にプラスして保育所のような機能を付加できることになり、保育所なら幼稚園のような機能を付加できることになります。
また、それらに加えて、認定こども園になることで、より一層、地域の在宅で育児している家庭の子育て支援の役割もになうこととされました。
実際に、待機児童の多い地域を中心に、幼稚園においても預かり保育を長時間利用して、保育所に通うような共働きの家庭が多数利用している一方、少子化に悩まされている地域では、幼稚園も保育所も集団としての教育・保育を行うことが困難になりつつあったことは事実でした。
加えて、共働きの家庭の子どもにも、専業主婦の家庭の子どもにも、等しく集団保育や教育の機会を提供すべきという声が以前からあったのも確かであり、「共働きやひとり親家庭は保育所、専業主婦家庭は幼稚園」という構図を徐々になくし、「就労状況にかかわらず幼児教育や必要な保育を総合的に提供する施設類型を」という流れは、世論の流れと合致するものだったのかもしれません。
なお、保育内容については、従前から幼稚園は『幼稚園教育要領』、保育所は『保育所保育指針』に基づいて行ってきているわけですが、平成20(2008)年には、幼稚園教育要領と保育所保育指針の改定がなされ、整合性が図られました。保育所保育指針にはいわゆる「教育の五領域」が規定され、等しい教育の提供へと一歩が進められました。
また、保育所保育指針には園の役割として明記されている「保護者支援」について、幼稚園教育要領には、「子育ての支援」として「地域における幼児期の教育のセンターとしてその施設や機能を開放し、積極的に子育てを支援していく必要がある」と追加され、歩み寄りがなされました。
2.税制抜本改革と新制度
(1)社会保障・税一体改革
国は、その後も、きたるべき財源確保の折には、認定こども園制度の改善による子育て支援の充実をはかるべく、ワーキングチームをつくるなどして、認定こども園制度の改善を検討していきました。
「総合施設」を作り保育所・幼稚園をすべて廃止する案など、さまざまに検討が進められました。
その後、政府では社会保障(年金・医療・介護)の財政上の将来的な行き詰まり感から「消費税増税まったなし」の機運が高まりました。
平成23(2011)年6月に政府は、消費税増税を柱とする税制抜本改革を行うとともに、そのお金の一部を「子育て」の分野にあてるための法律を策定していくことを決定しました。それにあわせ、認定こども園制度の見直しが、現実の話となってきたのです。
政府は、平成24(2012)年2月に「社会保障・税一体改革大綱」を閣議決定しました。それまで検討が重ねられてきた「子ども・子育て新システム検討会議」の「子ども・子育て新システムに関する基本制度」が、平成27(2015)年4月にスタートした現在の制度の土台となっていきます。
(2)「子育て」が社会保障の一つに
その後、国会の審議を経て、平成24(2012)年8月に法案が成立し、子ども・子育て支援新制度の法律が整備されました。
その審議は難航しましたが、その国会審議中の平成24(2012)年6月における民主党・自民党・公明党による法案の修正協議をいわゆる『三党合意』と呼び、「社会保障・税一体改革に関する確認書」が交わされたことが、子ども・子育て支援新制度の実現に大きくつながりました。
また、その決議の際には、衆議院でも参議院でも附帯決議がなされています。附帯決議とは、「このあたりが将来的課題だと思うので、今後の対応課題として追記することをあわせて(附帯)決議する」といったところでしょうか。その附帯決議は、衆議院で6件、参議院で19件あり、その量をみてもどれだけ生みの苦しみがあったかが知らされます。
とはいえ、「年金・医療・介護」に加え、ようやっと「子育て」が社会保障のひとつとして、恒久的な財源で保障されるようになったことは、「奇跡の果実」(『早わかり 子ども・子育て支援新制度 現場はどう変わるのか』ぎょうせい)というほかありません。
この奇跡の果実を、たずさわる者が大切に育んでいかなければなりません。
3.平成27年度からの新制度による幼保制度の一本化
(1)入園手続きと園の運営費補てん(給付)の一本化
新制度になって根本的に変わったところの一つは、基本的に、幼稚園や保育所、認定こども園、地域型保育事業所の入園手続きや園の運営費の補てん(給付)について、同じルールを土台としたことです。
これを「教育・保育給付認定」と言います。
「教育・保育給付認定」については、以下の記事に解説しています。
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(2)新制度の「幼保連携型認定こども園」
もう一つのポイントは、新制度で幼保連携型認定こども園の制度が大きく改善されたことです。
まず、幼保連携型認定こども園は、幼稚園と保育所の特長をあわせもった施設であり、親の就労の如何にかかわらず、子どもが続けて通園できることを志向した園ですが、 それを、「幼稚園部分」(学校)と「保育所部分」(児童福祉施設)の合築のようなこれまでの概念を改め、学校でもあり児童福祉施設でもある「ひとつの園」だということにしました。
加えて、幼保連携型認定こども園の設置について認可を受けるには、項目ごと(例えば、職員数や面積基準など)に、幼稚園と保育所の認可基準の厳しい方をパスしなければならないとされました。
(3)保育所も教育的施設とされ、幼保が同じ教育目標に
幼稚園において、「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであり、幼児期の特性を踏まえ、環境を通して行うものであることを基本とする」(『幼稚園教育要領』)とされているのに対し、保育所も、「環境を通して乳幼児期の子どもの健やかな育ちを支え促していく」、「乳幼児期にふさわしい経験が積み重ねられていくよう丁寧に援助する」(『保育所保育指針解説』)などとされています。
また、幼稚園では『学校教育法』において幼稚園の目標が五つ示されており、いわゆる五領域(「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」)が提示されていますが、保育所においても『保育所保育指針』において、子どもの保育の目標の中で前述の五領域が示されており、幼稚園と保育所で教育目標については整合がとられています。
また、平成30(2018)年度から施行・適用された『幼稚園教育要領』と『保育所保育指針』の改正においては、どちらにも「育みたい資質・能力」として「知識及び技能の基礎」、「思考力・判断力・表現力等の基礎」、「学びに向かう力、人間性等」の3つが提示されました。
そして、小学校教育との円滑な接続として「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(「健康な心と体」「自立心」「協同性」「道徳性・規範意識の芽生え」「社会生活との関わり」「思考力の芽生え」「自然との関わり・生命尊重」「数量・図形、標識や文字などへの関心・感覚」「言葉による伝え合い」「豊かな感性と表現」)が示されています。
加えて、保育所については「幼児教育を行う施設」との位置づけが明確化されました(幼稚園は、もとより学校教育法に定める幼児教育を行う「学校」です)。
新制度で「教育と保育をするところが『認定こども園』である」として、新制度で「認定こども園」が推し進められるにしたがい、「保育所では教育が受けられない」という誤解が広がりました。法律の解釈は別の場にゆずりますが、幼稚園も「幼児を保育する」ところで、「幼児の保育をつかさどる」のが幼稚園教諭の業務となっており(『学校教育法』)、幼児に対する活動すべてを「保育」と総称しています。これについては、大学教授で国の「子ども・子育て会議」で新制度設計に尽力された柏女霊峰教授も次のように述べています。
「教育」と「保育」という表現は、それぞれが行われる舞台の違いというべきであり、すでに見たとおり、目的と方法が同じである以上、内容そのものには違いはないといってよい。
出典元:『子ども・子育て支援制度を読み解く その全体像と今後の課題』誠信書房
4.まとめ
児童福祉として、必要な子供にはまちがいなく保育を受けることを役所が保障することが要である「保育所」制度。一方、幼児期の教育保障を前提としつつ、私学の自主自立、建学の精神の元で、自由な教育を行い、あるいは自由な教育を受ける権利が浸透している「幼稚園」。
そんないわば水と油の制度を、保育所への入園での「利用調整」(いわゆる「選考」)は残しながら、入園手続きや園の応諾義務、運営費(給付)の流れなどは、平成27年度からの新制度で、基本的に一本化されました。
また、提供する教育・保育内容も、現在は、「幼稚園教育要領」も「保育所保育指針」も目指す方向は同じになっています。
そして、その幼保の機能の合わさった「幼保連携型認定こども園」制度もブラッシュアップされました。
ですので、サービス提供者目線だった幼保の制度は、だいぶ利用者目線になっているはずで、厚労省と文科省と内閣府で幼保の所管がたとえ別れていたとしても、制度上は同じ方向を向いて、それぞれで同質の教育・保育が提供され、利用時間に応じて同じような費用負担やサービスになっているはずなのです。
しかし、実際はそうなっていないですし、誰も「すでに幼保一元化はできている」なんて思ってくれていないのが現状です。
それは、どういうことなのか。
この原因を理解して、この改善に向かうような取り組みをしなければ、「子ども庁」を創設して所管を一つにして見た目をスッキリさせても、本当に子どもや保護者にメリットのある「幼保一元化」にはつながらないことが見えてきます。
改めて今後の記事で、幼保を一つにするとはどういうことなのか、掘り下げていきたいと思います。