自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

「隠れ待機児童」とは何か

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 「隠れ待機児童」の話題が新聞に載っていました。

神戸市長選 市政のギモン 子育て
 では「待機児童」とは一体何なのだろうか。定義では、主に立地などの選択肢を広げて入所を希望するが、保育所に入れない児童のことだという。ここには国の基準で「特定の保育所を希望する」人は算入されない。つまり希望の保育所を絞っていて入れない、いわゆる「隠れ待機児童」が存在する。
 その数え方は絞る数などにより、各自治体で異なる。保育環境、自宅や職場との距離、保育料などで、どこまでより好みするか濃淡はあるが、こうした隠れ待機児童の数も調べてみた。
 神戸市では「入所希望で入所できていない児童数」のうち、「待機児童」を差し引いた1016人が該当。実に待機児童(11人)の92倍だ。 
(出典元:神戸新聞NEXT 2021/10/06 5:30

 今回は、いわゆる隠れ待機児童とはどんなものかを確認します。

1.待機児童とは

 待機児童とは一般的に「保育所に入れずに入所を待っている子ども」を指す言葉として使われています。
 また、「隠れ待機児童」とは、新聞記事では「希望の保育所を絞っていて入れない子ども」だとしています。
 たしかに国の示す待機児童の定義でも、「他に利用可能な施設等があるにもかかわらず、特定の施設等を希望される方」はカウントから抜くこととされており、 さまざまな意見の中でその是非が課題視されています。

(参考:保育所等利用待機児童数調査に関する自治ヒアリング資料)
保育所等利用待機児童数調査に関する自治体ヒアリング 資料
※この厚生労働省ホームページの「参考資料2 保育所等利用待機児童の定義」を参照

 ここでは、
 (1)「保育所」は具体的に何を指しているのか
 (2)「待っている」とはどういう状況か
 を見ていきます。

2.ここで言う「保育所」とは

 小学校に入学する年齢までの子どもたち(いわゆる「就学前児童」とか「0歳児から5歳児」と言われます)が毎日通園する園・施設・サービスには、主に公立・私立をあわせて認定こども園(①朝〜夕方の利用枠、②朝〜昼過ぎの利用枠)、幼稚園(①朝〜夕方の利用〈夕方は預かり保育利用〉、②朝〜昼過ぎの利用)、保育所(園)・小規模保育事業所(=朝〜夕方の利用)のほか、児童発達支援事業所(いわゆる児童デイ)などがあります。
 ほかに認可ルールとは別の枠組みですが、企業主導型保育事業所などもあります。
kobe-kosodate.hatenablog.com
kobe-kosodate.hatenablog.com
 そのうち、「待機」として取り上げられるのは、認定こども園の①朝〜夕方までの利用枠と、保育所(園)・小規模保育事業所(=朝〜夕方までの利用)に申し込んでいる人であり、これらが待機児童が入れずに待っている「保育所」(これらを便宜上「認可の保育枠」と呼ぶことにします)になります。

3.「待っている」とは

 では、「待っている」人をどう把握すればよいでしょうか。
 「申し込んで入園までたどり着いていない人全員に決まっている」との言葉が聞こえてきそうですが、話はそう単純ではありません。
 カウント上は真逆に作用する2つの視点を挙げます。

(1)実はまだ入園する予定ではない(待っていない)

 育児休業は子どもが1歳になるまでですが、育休後に保育所等に入れない人の救済として、保育所等に入れない証明書があれば、育児休業を延長できることになっています。
「育児休業」の延長を予定されている労働者・事業主の皆さまへ
厚生労働省ホームページより)
 これを最大限に活用(?)し、「認可の保育枠」を申し込む際に、現状は枠いっぱいで入れない園を選んで申し込もうとされる保護者の方に、私も窓口で何人もお会いしてきました。
 本当に保育所等に入園させてすぐに復職したい方が普通におられますので、もちろん誰もがそうではありません。たしかに年度途中ですでに保育所等がいっぱいの状態の中、年度途中で1歳になっての保育所保留→育児休業延長は、残念ながら散見されるパターンです。
 子どもを2人授かりたいと出産を計画されるご夫婦からよくお聞きするのは、一人目の子どもの生まれたあと、1年をおいて次の子を出産されるパターンです。
 そうなりますと、誕生月によっては次の出産計画が近づいていて、中途半端に復職するより保育所等に入れないことにして育児休業を延長しつつ給付金で生活をつなぎたいという心境になる人があっても、それをことさら咎める話なのかは何とも言えません。
 ただ、そのような数が「隠れ待機児童」と言われる数には混じっており、それが税金を使って保育施設を新たに建設してまで対処すべき数なのかということです。
 本記事で対応すべき「隠れ待機児童」としている1,016人のうち、「4月1日に育児休業を取得されており、保育所等へ入所できた際に復職する意思が確認できない方」は457人おられます。それをどうみるかは、育休制度も合わせて冷静な検討が必要かもしれません。
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/43520/shiryo2.pdf
(神戸市ホームページより)

(2)どこかに通えている子どもは除かれる

 次の視点は、待機児童数は、認可外保育施設や家に居て「認可の保育枠」に入園できるのを「待っている」人であって、やむなくどこかの園(他の「認可の保育枠」や企業主導型保育事業所など)に通い始めた子どもは、転園を希望していてもカウントされないということです。
 たしかに、どこまでも保護者のニーズに合わせて整備しなければいけないのならば、特定の園が魅力的でそこに希望が集まればその園を増改築するしかなくなります。
 しかし、そんな土地もなかったりしますし、そこまで保育の提供を保障しきるには学校のように校区を設定してあてがうほかありません。それでは園の特色で保護者が選ぶことができなくなり、結果として保護者がのぞむ保育を受けられないということになります。
 国も、保育枠の確保は、特に都心部ではまとまった土地も確保しづらいことなどから、小規模保育事業所やステーション事業(保護者は駅前のステーションまで子どもを送迎する。園はそこからバスで郊外の広い園まで釣れていく)、企業主導型保育事業所など、それこそ税金を投入してさまざまな保育枠を推進しています。
 一方、これらの中には認可保育所(園)や認定こども園よりは職員の資格基準(保育士配置の割合)がゆるいものがあります。職員の研修面も濃淡があります。また、2歳までの施設もあり、その場合は3歳以降に再度保活をしなければなりません。
 また、別の視点として、各自治体は「子ども・子育て支援事業計画」で、住民アンケートに基づいて潜在的保育ニーズも含めたニーズを把握して、その上で認可の保育枠を整備しています。
 事業計画上、枠が足りているのであれば、この待機は何なのかという分析も必要です。
 この少子化の中でも子育て世代が引っ越してくる街と、人口流出している街がでてきていますが、待機児童数の変動を子育て家庭の施策満足度とセットでとらえることが、待機児童数が「施策の成果」か「住民の妥協の産物」なのか判断する目安となるかもしれません。

4.まとめ

 「隠れ待機児童」をどのようにみるかは人それぞれに見方があろうかと思います。
 そもそも「国定義の待機児童」も自治体間の状況を横並びに確認する一つの手段であって、それが何人だからその人数分だけを施設整備がんばりますというような指標でも元々ありません。
 ですので、この待機児童数に一喜一憂したり、「隠れている数があるんだぞ!」と鬼の首を取ったかのようにことさら荒らげる話でもなく、分析の一つの材料として他の指標と合わせて冷静に検証する必要があります。
 たとえ待機児童がゼロであれ、子どもの成長発達や家庭の状況によって、数値上の受け入れ枠を用意しただけでは解決しないことはいくつもあります。濃淡はあれ、窓口では、入れずに困っている保護者が来られ、どうしていったらよいか悩みをお聞きし、最善が無理でも次善策がないか、お話をお聞きして対応する日々は続くものと受けとめています。

 ここまでお読みいただきありがとうございました(*^^*)