自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

子育て支援のイロハ①(子ども・子育て支援の「設計図」)

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 以前に、認定こども園保育所・幼稚園に入園するときの「教育・保育認定」というものについて(1号・2号・3号など)について紹介しました。

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 また、一部無償にもなっていますので、無償化もみていきました。(新1号・新2号・新3号も少し紹介しています。)

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 しかし、今でも隠れ待機などが問題視されていますので、その点も以前にふれました。

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 一方で、せっかく入園できても、肝心の中身が子どもの健やかな発達に適わない内容でしたら話になりませんので、その点の役所の役割なども以下の記事などでみていきました。

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 今回は、それらの前提となる制度の仕組みを、土台から掘り下げて見ていきます。

1.子ども・子育て支援新制度の「起・承・転・結」

 よく「話には起・承・転・結がある」と言われますが、新制度も、この流れを知っていただくことが、遠回りに思えても、日本の幼稚園や保育所認定こども園などがどういうルールの上にのっているのかを知る近道です。

 一般の方にも新制度の手続きをできるだけ分かっていただきたいので、これから新制度を「積み木」にたとえて説明していきます。

 積み木は、下の方から積んでいきます。下の方がグラグラしていたり小さかったりすると、どれだけ上の方に高く積みたくても途中で倒れてしまいます。

 同じように新制度も、下の土台がしっかりしていないとどれだけ上に立派なものを積もうとしてもうまくいきません。

 

 この積み木は一人で作るのではありません。役所がそばでああだこうだ口を出したり手を出したりしながら、園の先生方や保護者と一緒に積み上げていく協働作業です。

 どんな積み木を積んでいって、どんなものが建つのか、これから何回かに分けて見ていきたいと思います。

2.事業計画を策定する

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 まずはじめの積み木は「事業計画」という名前の積み木です。これは横長の形をしています(図1)。(積み木を積んでいった完成版が見えてこないと、この図1だけでは意味不明ですが。。。)

 役所(この場合、市町村)は、まず「子ども・子育て支援事業計画」(略して「事業計画」)を作らなければなりません。

 

 「事業計画」には、

①まず理念」(「うちの地域の子ども・子育てをどうしていくのか」)を文章化し、

②新制度のそれぞれのサポートについて、市民がどれだけ必要としているのか(ニーズ)、

③そして、今のところどれだけ園の数や受け入れできる枠(キャパシティ)があって、

④今後の不足あるいは過剰はどれだけか、その不足分をいつまでに整備していくのか(確保方策といいます)ということを書いていきます。

 また、そこには、幼稚園や保育所が「認定こども園」に看板替えしていくことを、市町村でどのようにサポートしていくのかも書かなければなりません。

 そのほか、

①出産で育児休業に入ったお母さんが職場復帰したいときにスムーズに保育所などに入園できるように、市町村としてどのようなサポートを進めていくのか、

②障がいのある子どもの教育・保育サービスを受ける平等な機会の提供についてどう取り組んでいくのか、

③ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の推進についてなども記載に努めることとされています。

3.国の「基本指針」が新制度の出発点

 平成24(2012)年8月に『子ども・子育て支援法』などの法律が成立し、市民に一番身近な市町村が「新制度の実施の中心」になることは決まったものの、役所はすぐ準備に動き出せるわけではありませんでした。

 まず、国が「子ども・子育て支援に関する基本指針」(略して「基本指針」)を作る必要がありました。

 「基本指針」には、市町村の事業計画に具体的に何をどう盛り込むかが描かれます。そのため、国は平成25(2013)年4月に、全国の学識経験者や幼児教育や保育の団体代表者、自治体の代表らによる「子ども・子育て会議」を立ち上げ、早急に議論を進めました。

 そして、平成25(2013)年8月に『子ども・子育て支援法に基づく基本指針の概ねの案』が公表されます。

 その中で、今後、各市町村が事業計画を作る上で土台となる、市民ニーズを正しく把握するための「ニーズ調査」の調査票イメージなどが示されました。

 こうして、役所はあわただしく「ニーズ調査」の作業へと移っていきます。

4.市民アンケート(ニーズ調査)で「量の見込み」をはかる

 新制度準備の残業から帰宅した私が、家のポストに見つけた役所からの封書。「ニーズ調査」の調査票が私の家にも届いたのです。

 待機児童のニュースなどを聞かれ、はじめから保育所の入所をあきらめておられる家庭や、「近くに保育所ができれば子どもを預けて働きたい」というお母さんなど、現在保育所の待機児童と言われる方以外にも、隠れた保育ニーズがあります。

 それを「潜在的なニーズ」といいます。

 新制度では、潜在的なニーズの分まで保育所などを用意しなければならないとされ、そういったニーズも含め、ニーズ調査で明らかにしようとしました。

 また、そのほかさまざまな子育てに関するサポートのニーズも調査しました。

 私たちの市では平成25(2013)年の秋に、この「ニーズ調査」を実施しました。

 この調査結果の数字がそのまま計画の土台となっていきます。

 その後、技術的な算出方法など、国から助言ももらいながら、どれだけのニーズがあるかをとりまとめていきました。

5.有識者らによる子ども・子育て会議

 事業計画は、役所の担当者の力だけで良いものが作られるものではありません。

 『子ども・子育て支援法』では、自治体にも地方版の「子ども・子育て会議」を設置するように努めるよう定められています。

 「子ども・子育て会議」のメンバーは、学識経験者や幼稚園、保育所、その他児童福祉に従事される先生方、子育て中の家庭の方など、それぞれの役所の方針に沿って選びます。

 「子ども・子育て会議」では、「事業計画」策定に関することを審議するほか、幼保連携型認定こども園の「認可(あとで説明しますが、開園許可のようなものです)」、園の利用定員の「確認(あとででてきますが、税金で運営してよい受け入れ人数を「確認」することです)」などを話し合って審議します。

 

 また、「子ども・子育て会議」は、新制度が始まるまで毎月のように会議を開いていただきましたが、新制度開始前にだけ必要なものではありません。

 NPO法人子育てひろば全国連絡協議会理事長である奥山千鶴子氏は、「第二ステージに進化させよう!子ども・子育て会議」として、報告書に以下のように述べています。

 現在進行中(※注 この報告書は平成26(2014)年11月発行)の議論が地方版子ども・子育て会議の第一ステージだとすれば、新制度スタート後には第二ステージに入ります。

第一ステージの議論は、時間との闘いでもあり、保育所などの量の議論がどうしても中心になりがちだったのではないでしょうか。ただ、計画は決して「作ったら終わり」ではありません。作った計画に「魂」を込めないといけません。

地方版子ども・子育て会議の第二ステージでは、しっかりと「質」の議論も深めながら、地域づくり、ネットワークづくりを関係者が一体となって語りあうことが重要です。地方版子ども・子育て会議は、子ども・子育て支援新制度がスタートしたら役割を終えるのではありません。むしろ、これからの第二ステージこそが大事です。  

子育て家庭を取り巻く社会環境は、年々変わっていきます。制度もインフォーマルな支えあいも、しっかりその変化に対応できるよう進化させていきましょう!

(『子ども・子育て支援新制度 普及・啓発人材育成業務報告書』内閣府

 近況の報告や事業計画の途中経過の検証状況など、さまざまな議論をとおしてよりよい制度にしていくことが、子ども・子育て会議のこれからの大きな役割になってきます。

6.確保方策の検討

 さきほどの「ニーズ調査」で、今後5年間の潜在ニーズも含めた必要な園の数や利用枠が推計できました。

 それによって、現在と比べて、どれだけ不足しているかが明らかになるはずです。その不足分について、幼稚園や保育所認定こども園や地域型保育事業所など、どのような類型の園を建てて、何年度に何人分の枠を、確保(整備)していくかということを決めていきます。

 たとえば、幼稚園に通園するような子育て家庭のニーズが思いのほか大量にあって、園が不足しているのなら、幼稚園あるいは認定こども園を整備することになるでしょう。

 一方、3歳以上で、ある程度長時間の保育が必要な子育て家庭のニーズが高く、保育の枠が不足している場合には、保育所あるいは認定こども園、また、長時間の預かり保育をしている幼稚園の出番です。

 しかし、2歳までの子どもで、長時間保育が必要な子どもの枠だけが足りないのであれば、0~2歳を対象とした地域型保育事業所を増やすことでも対応可能です。

 実際には、公立園と私立園、幼稚園と保育所のバランス、これまでの設立経緯や地域の方々のご理解など、さまざまなことを考慮して、確保の方策を検討しなければなりません。

7.事業計画の完成

 計画案ができると、一般市民の方にもご意見をうかがいます。

 そうして、いろいろな方々の目に触れご意見をいただきながら、計画は完成していきます。

 なお、都道府県は市町村分をとりまとめた都道府県バージョンの「子ども・子育て支援事業支援計画」を作成します。

 事業計画は公表されていますので、誰でも見ることができます。

 この「事業計画」は、お話ししていく積み木の一つ目です。

 この積み木を置かないと、上に次の積み木を置いていけません。

 ですので、非常に大切なものです。川にたとえるならば、川上・水源地にあたるのがこの「事業計画」といえるでしょう。

8.計画は一年単位で点検、計画の中間年で見直しも

 計画を作ったからには、新しい園を作りたいというお話が事業者(社会福祉法人や学校法人、株式会社など)からあった際は、この計画に照らして必要性を検討しなければなりません。

 また、「事業計画」は5年計画ですので、5年ごとに更新することになっています。

 

 一方で、

 ①一年ごとに、園の整備や事業の実施状況について、子ども・子育て会議で議論していただくとか、利用者の視点に立った指標を使うなどしながら、点検・評価してその結果を公表していくこと、

 ②教育・保育給付認定を受けている方(利用したいという家庭)が、計画時点の見込みよりも大幅に多い場合は、その方々(入園を待っている方々)に対応するために、新たな園を増設するなり、今の園を増築するなりの対応を行うために、計画途中の三年目を目安に、計画見直しを行うこと、

 が定められており、住民目線での機動的な見直しが求められています。

 

 続きの「積み木」は、またの機会に。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。(^^)/