自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

子育て支援のイロハ⑤(保育園等の入園選考「利用調整」)


 保育園や認定こども園の利用の流れの続きをみていきます。

 前回の記事は以下をご覧いただければと思います。

kobe-kosodate.hatenablog.com

 

1.「利用調整」が規定された経緯

 「教育・保育給付認定」を受けたということは、「給付を受け取る資格があることを認定した」ことだということを前回みていきました。

 では、この「認定」を受ければ、いつでも園は入園を認めてくれるのでしょうか。

○「1号の認定」を受けている場合

 その園にまだ空きがあれば、「幼稚園」と「認定こども園」で4時間を標準に(園が決めています)利用できます。

 一度に多くの方が申し込まれた場合には、園はあらかじめ決めたルールにしたがって選考します(抽選、早いもの順、兄弟の上の子が入園したことがある、など)。

○「2号や3号の認定(標準時間、短時間)」を受けている場合

 「2号や3号」の認定は、仕事などの事情でまとまった時間、園での保育が必要な子どもを養育する保護者が認定を受けることができますので、「2号と3号」の認定を合わせて「保育認定」とも呼びます。

 「保育認定」で利用できる園は、「認定こども園」と「保育所」、それから「地域型保育事業所」です。

 法律的な話をしますと、実は、定員を超える申し込みがあったときは、どの子どもから優先して入所するかを「園が選考する」と、『子ども・子育て支援法』に定められました

 しかし、一方、児童福祉法』には、当面のあいだ、保育が必要な子ども(「保育認定」の子ども)については、「役所が利用調整する」と定められました

 この二つの法律は、いったいどう読めばよいのでしょうか

 新制度以前、「保育所」の入所選考は役所が行っていました。

 一方、「認定こども園」については(実は「認定こども園」という制度自体は、平成18(2006)年度からありました)、そういう保育を必要とする子どもの利用する枠の入園も、園で選考して決めていました。

 新制度をつくるとき、国は当初これまでの認定こども園のやり方を引き継いで「園が選考する」法律の案としていました。

 ところが、待機児童が多い地域を中心に、保育所認定こども園を保護者がかけずりまわらなくてはならないのではないかという不安の声が多く寄せられました。

 保育研究所編の『徹底検証!保育制度改革 新制度案に子どもの未来は託せない』(ちいさいなかま社)にも、「保育所に入所できるかどうかは親の力しだい」と題し「自分で保育所を探し、入れるまで何か所でも足を運ばなければならなくなります」と、当時の案を批判しています。

 国会の審議中の平成24(2012)年6月に、民主党自民党公明党(当時の政権は民主党)は、法案の修正協議を行います。

 そうして合意された内容を「三党合意」と呼びますが、この協議において、「『保育認定』の子どもの利用については、当面のあいだ、役所で『利用調整』をすること」とされたのです。

 その後、国会の審議を経て、平成24(2012)年8月に法案成立。子ども・子育て支援新制度の法律が整備されました。

 国の制度設計担当も説明会で、「立法府(国会)の判断で『利用調整』が規定されたことは、非常に重く受け止めなければならない」と言っています。

 したがって、先ほどの二つの法律の読み方は、

  • 『子ども・子育て支援法』で、すべての園に「空きがあったら、もっともな理由がない限り、受け入れを拒否してはいけない」という義務(「応諾義務」といいます)を課した上で、「選考はあらかじめ決めた公正な方法で園でやってください」((保育所以外には)「選考権」の付与)としつつ、
  • 児童福祉(子どもの幸せ)の観点から、『児童福祉法』において「役所がきちんと優先順位をつけて、困っている家庭の子どもから責任をもって『利用調整』しなさい」と、『子ども・子育て支援法』の上に「児童福祉」の網をかぶせて、「本当に保育が必要な子ども」から優先して利用できるように役所が力を尽くすことを求めています

 実は、この「保育が必要な子どもについては、役所が利用調整しなさい」という『児童福祉法』の規定のあとに、

  • 十分な養育を受けられていない子どもの保護者が申し込みをしてこない場合は、「役所が、保育所や幼保連携型認定こども園などの申し込みを勧めたり、申し込めるようフォローしたりしなさい」
  • それでも申し込まないときは、場合によっては、「役所が、保育所や幼保連携型認定こども園への入園を決めてしまいなさい(「措置(そち)」といいます)」と、立て続けに規定されています。

 どんな家庭の子どもが優先的に利用すべきなのかは、皆さんそれぞれの価値観によって、答えもちがってくるのは当然ですが、「子どもの福祉」の観点から利用調整はなされるべきものだということを示しています

2.利用調整の基準

 「利用調整」は、保護者の希望にもとづき役所が行うものですので、希望していない園へ勝手に入園をあてがわれるということはありません。保護者の希望する園について、役所は、あらかじめ定めたルールにしたがって利用調整をします。

 国は、現在の保育制度の源流である、昭和の措置入所制度の時代から、「保育に欠ける児童(今で言うところの「保育認定」の子ども)の申し込みが、保育所の定員を超える場合は、児童の家庭の構成(たとえば、ひとり親家庭であるとか、親以外の同居している親族が子どもを保育できないのかどうか)や、親の就労時間などの状況を十分把握して、入所する児童を決めなさい」と自治体に指導してきました。

 また、「その決定にあたっては、画一的な書面審査に頼ることなく、必要に応じて必ず実地調査を行いなさい」としてきました。

 私は選考作業の一環として、待機児童のおかれている現状の確認のために、その子どもの家庭が営む事業所や農作業の場を訪問したことがありますが、百聞は一見に如かずというように、入庁したての私には非常に勉強になりました。

 利用調整では公平性や透明性が求められるため、家庭での保育が困難な度合いを点数化して利用調整している役所が現在は多いですが、これまでの選考の趣旨を引き継いで、親の就労時間などの状況や、ひとり親であるか否か、同居する親族の状況などを点数化していたり、現在の保育状況(認可外保育施設を利用している、など)や、申し込みの子どもの兄弟・姉妹がどこで保育されているかなども点数化したり、さまざまに項目を設けて優先度合いを判断しようとしています。

 新制度において、国は優先度の高い例として、①虐待が疑われる、②配偶者間などで家庭内暴力(DV)のおそれがある、③ひとり親家庭、④生活保護世帯で就労による自立支援につながる場合、⑤障がいのある子どもの利用できる園が制限されている場合、⑥育休明け、⑦多子世帯 など、さまざまな事例を挙げており、役所はそれらについても考慮した点数表やルールを作っています。

 利用調整の点数表などは、「審査基準」といえるものですので、窓口に備えつけるなど市民の目にふれるようになっています。

3.利用調整の趣旨

 この利用調整は、役所としても精神的に非常に労力を費やすものですが、どの子どもも保育認定を受けている以上、保育が必要な状況であることに変わりはなく、利用資格がある中での順位付けは、入園できなかった親にとっては、どうしても納得しづらいものであることは否めません。

 この点数は、家庭での保育が困難な「現状」の度合いを相対化するために設けているものですので、親の「努力」を評価するような趣旨の点数ではありません。

 しかし、保育所等に入れないと働くこともできないため親も必死ですし、ネット上では「保育所合格最低点は200点」だとして、「点数をどうやって上げるかが保活の鍵」などとさまざまな口コミがあふれています。

 ほかにも、「点数が高くないと入れない園の市内上位20位に、うちの園がランクインしました」とブログで胸を張る園の運営者があらわれているのを見ると、非常に複雑な気持ちになります。

4.まとめ

 優先順位の決め方について、市にもさまざまなご提案を頂戴します。

 たとえば、「国が女性の活躍というのだから、女性が起業するような人間を優先すべきだ」「保育士不足で困っているのだから、保育士の子どもを優先すべきだ」「どんどん生んでもらいたいと国が言っているのだから、多子世帯の子を優先すべきだ」「わが市の人口減少をくいとめるために市外からの移住者を優先すべきだ」など、本当にさまざまなご意見をいただいてきました。

 『児童福祉法』やこれまでの制度運用の経緯を振り返れば、そもそもの「利用調整」は、国・役所の政策的誘導のためではなく、また、努力する親が「第一希望の園」に子どもを入園させられることに主眼が置かれた制度でもないことが見えてきます。

 保育が必要な切迫した状況があっても、「応諾義務」を園に義務付けるだけでは入園までたどりつけない親子がある可能性を前提に、その子が「どこかの通える園」で必ず保育を受けられることが眼目の制度であると読めます。

 地域によって状況はだいぶ異なると思いますが、誰もが保育認定さえ受ければ、通える距離でどこかの園には入園できる、そんな需要と供給のバランスがある程度落ち着いたころには遅くとも、現在の点数制度について、その趣旨に照らしてもう一度あり方を考え直すことが必要になることも想定されます。

 

 ここまでお読みいただきありがとうございました。(^^)/