自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

子育て支援のイロハ⑦(保育園等の利用にあたり「保育料(利用者負担額)を支払う」&「給付する」)

 保育園や認定こども園の利用の流れについて、「子育て支援のイロハ」として①から⑥までお付き合いいただきました。

 最後である今回は「保育料の支払い」と「給付」についてです。

 前回の記事は以下をご覧いただければと思います。

kobe-kosodate.hatenablog.com

1.最後の積み木

 「子育て支援のイロハ①」からこれまで、積み木を載せて家を作るような図で、手続きや事務のつながりをみてきました。

 その例え話でいきますと、最後は、左側から保護者が「保育料」という積み木を、右側から役所が「給付」という積み木をのせる作業になります。

2.「保育料」を支払う

(1)幼児教育・保育の無償

 幼児教育・保育の無償化は、令和元(2019)年10月に始まりました。おおむね3歳(いわゆる年少クラス)から5歳(年長クラス)までの幼稚園・保育所認定こども園などを利用する子どもの保育料が無償になるものです。

 無償化については、以下の記事をご覧ください。

kobe-kosodate.hatenablog.com

 なお、まったくの無料になっているわけではなく、入園時や進級時の費用(私立幼稚園であれば入園金や施設整備協力金のようなもの)などは園によって金額が異なります。

 さらには、制服代や園外保育の費用などについて、実費分を保護者から徴収しているほか、他園よりも高水準の教育を行うなどのために、あらかじめ保護者から同意を得た上で、保育料に上乗せして保護者に負担してもらっている園もあります。

(2)無償になっていない年齢などでの保育料

 無償化の対象になっていない0歳から2歳クラスの保育所認定こども園、地域型保育事業所の保育料は、家庭の収入によってランク分けされて決められています。

 もともと国と県と市町村で費用を負担しあうために設定されている「国基準の保育料表」があり、それをもとに、市町村が保育料を決めています。

3.「給付する」

(1)利用者負担額は、必要な全体費用(公定価格)の一部分

 園は、保護者からの利用者負担額(保育料)だけで運営できるわけではありません。
 子育て支援のイロハ④でご案内した「教育・保育給付認定」は、「新制度の園を利用した際には、その費用の一部を役所から「支給」される権利がありますよ」という「認定」を受けることです。

 したがって、利用者負担額だけでは足りない分は、役所から保護者にいくのが建前ですが、どのみち園に支払わないといけないお金ですので、手続き上、役所から園に直接給付されます。

 このお金を「給付費」といい、このお金の流れを「代理受領」と言います。

 ここで言う全体の「費用」とは、簡潔に言えば園長先生を含めた先生方や事務や調理の方々の給料や、保育材料費、水道光熱費などすべての費用を、在園する子どもの人数で割った一人あたりの費用を指します。

 これは、園がどれだけの子どもを受け入れているかという園の規模によるスケールメリットと、物価などの地域差を考慮して、国が細かく金額を定めています。

 これを「公定価格」といいます。

(2)設置基準どおりの保育に必要な金額=園に入る収入

 公定価格の考え方派、おおざっぱに補助金を国や自治体がドカンと出して園の運営を助けるというものとは異なります。

 役所がわざわざ子ども一人あたりの教育・保育に必要な単価をはじいて、それを全員分足して、その園の全体費用を計算し、毎月園に振り込みます。

 どうしてそのようなことをするのでしょうか。

 それは、教育・保育の「質」を守るためにほかなりません。

 この金額の設定にあたって見込んでいる先生の人数などは、園のそれぞれの種類(幼稚園とか保育所とか)に応じた認可基準(設置基準や設備運営基準というもの)をもとにしています。

 そして、それらの基準は、基本的に最低限守るべき「最低基準」と言われるものであり、さらなる向上に努めるよう求められているものです。

 ところで、特にさまざまな種類の園の中でも、「保育所」で提供する保育については、市町村に実施する責任があることから、役所が認可している私立の保育所の費用は「給付」費ではなく、市町村が社会福祉法人などに保育を委託している「委託」費として、市町村から保育所に毎月振り込まれます。

 そして、そのお金の使いみちには、「使途制限」といい、制限がかけられています。

 そのほかの種類の園では、保育所のような使途制限はありません。

 しかしながら、最低必要な先生の人数や教材費・研修費用などのルールから計算した経費の積み上げが、毎月の役所から園に振り込まれる金額であることを考えますと、一定の教育・保育の質が守られるために、そうやって適正と見込まれる額を定めているのだとしか説明のしようがありません。

4.役所の独自補助

 一方で、これだけでは園は、最低ルールの金額しかないということにもなります。

 そこで役所は、国に頼れない分は、子育て分野に重点的に配分することで、これも市民の税金にはちがいありませんが、独自にお金を工面しています。

 たとえば、「国のルール以上に保育士の先生を配置すれば補助金を出す」や、「障がいのある子どもの保育について先生を追加配置するだけの補助金を出す」などさまざまな取り組みを行っています。

5.まとめ

 子育て支援のイロハ①から⑦まで、長くお付き合いいただきましたが、こうして、「①事業計画」に基づいて、ニーズの分だけの園を「②整備」し、「③認可や確認」を受けた教育・保育の質がきちんとした園と、その量と同等の「④教育・保育給付認定」を受け、「⑤利用調整」された子どもの保護者との「⑥契約」がピッタリとおさまったとき、子どもの福祉向上のために「⑦子どものための教育・保育給付」がきちんと支払われるところまでたどり着くことになります。

 

 ここまでお読みいただきありがとうございました。(^^)/