自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

「幼保の一元管理」は形式的な話か、それとも子どもの幸せに直結するか

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 こども家庭庁を設置する話題において、新聞紙上でよく課題提起されているのは、組織の検討において幼保の一元管理が進まなかったという点と、財源面が充実するか分からないという点の2点です。

子ども中心の行政を確立するとともに、少子化に歯止めをかけるための新しい行政組織として、「こども家庭庁」の創設が2021年末に閣議決定された。しかし、文部科学省厚生労働省内閣府の縦割り行政の一本化や、諸外国に比べて少ない財源の確保などの措置は明確ではない。これでは岸田内閣の少子化対策への本気度は疑わしい。
出典元:日本経済新聞電子版 2022年1月5日 朝刊

 幼保一元化については以前にも2度記事を書かせていただきました。
kobe-kosodate.hatenablog.com
kobe-kosodate.hatenablog.com

 今回はまた違う観点からみていきたいと思います。

1 こどもに関する政策は待ったなし

 幼稚園と保育所の管轄を同じにすることは、それらの設置趣旨や制度の根本から異なることから、非常に大変な作業が要るのは事実です。
 日本大学教授で内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員の末冨芳氏は、以下のように言われています。

 幼保一元化をしないなら意味がない、こども庁が先送りされるようだ、このような単純化しすぎた偏った報道はとても危険です。
すでに省庁間連携での取り組みが進展してきた幼保一元化よりも、いままで取り組みがゼロだったこども政策に急いで着手するほうが、子ども若者のためにはよほど重要だからです。(中略)
 私は、幼保一元化はこども庁では不要であるという議論を、当初から展開してきました。
 幼保の制度統一にだけコストが割かれ、「やった感」だけが大人の間で演出され、子ども若者への投資や政策は充実しない、親子置き去りのノーメリットオプションだからです。
 教育政策の専門家として、エビデンスに基づくならば、幼保一元化など形式的なことにこだわるよりも、保育・幼児教育の質の向上のための適切な政策(とくにカリキュラムの質の向上)とそのための政府投資が急がれるからです。
出典元:子どもも親も置き去り?設置先送り批判・幼保一元化偏重のこども庁報道が危険な2つの理由 #こども政策(末冨芳) - 個人 - Yahoo!ニュース

2 幼保の一元管理はたしかに手段に過ぎないが、幼保の違いが、子ども政策のかなりの足かせになっているのでは

 こども家庭庁の創設にかかわっておられる先生方の論調を拝読すると、たしかに、餅は餅屋と言われるとおり、こども政策は喫緊の課題であること、そして、保育園や幼稚園利用において、乳幼児期からの教育・保育の質の担保が大事なことや、乳幼児期の教育・保育に財源投入することが日本の今後にとってとても必要なことなどが確信を持って伝わってきます。
 一方で、教育や保育の質はこうあるべきだという統一カリキュラムをいくら作っても、もともと向かう方向が異なり、公的な補助も根本的に異なり、経営の自由度が大きく異なり、基本的に国のカリキュラムに従う義務が無い施設類型もある中で、教育や保育の質を統一的に確保することは出来ようがありません。
 例えば、いくら0〜2歳でこんな保育が良いという素晴らしい資料が国で出来上がっても、保育園のクラスと、幼稚園のプレ保育は、公のお金のかけ方も、職員配置も利用ルールも違います。
 自治を旨として競争社会の中での経営で信用を得てこられた私立幼稚園と、それよりも公的なバックアップは比較的手厚いものの、福祉の受け皿として障害のある子どもも養育上の支援が必要な家庭も総ぐるみで支えることを信条としてこられた私立保育園の実態があります。
 そのどちらもその意義の中で地域の教育・保育を守っておられるわけですが、そもそもの制度の元を作っている国が、その制度の違いはそのままでも、同じく教育レベルが保障されるとか、障害児もきめ細かに保育を受けられるとか、どうしても園と反りが合わない家庭の子どもの教育・保育が保障されるなどと本気でお思いならば、それは首をかしげざるを得ません

3.認定こども園の4類型、幼稚園、保育園で障害のある子どもへの国の支援が違う

 保育園の制度では、厚労省の障害児保育のための園への補助制度があります。また、幼稚園でも、文科省特別支援教育振興として障害のある子どもの受け入れに対する補助制度があります。
 しかし、その対象範囲(どの程度の障害かなど)は異なりますし、補助対象となるかの審査も違います。また、補助額もまったく異なります。
 建前上、主婦層と共働き層が制度上分かれていた時代まで、すなわち子ども・子育て支援新制度が始まるまでは、幼保の違いということで説明していましたが、現在は、多数の幼稚園や保育園が認定こども園に看板替えしていて、よく批判される三元化どころかマトリクス的な制度になっています。
 それは、施設類型だけでなく、利用者の支給認定でサービスの趣旨(教育色か福祉色か)が分かれるからです。
 小さな例を挙げれば、幼稚園型認定こども園の0-2歳と3-5歳の子どもは、どちらの補助制度でしょうか。
 0-2歳は、保育枠であり、厚労省制度で対応するとして、3-5歳になれば、幼稚園型なので、文科省制度で対応するのが基本で、(この時点で何を説明しているのか意味が分からないでしょうが、)3-5歳で審査基準上、対象から外れるならば、子どもにとっても園にとっても何もよいことはありません。
 これは、子どもや家庭にとって理屈のない差異のほんの一例です。


 今、オミクロン株の流行で、幼稚園も保育園も大変なことになっていますが、同じ年齢に対しても、文科省が幼稚園に出しているマスクの扱いと、厚労省の保育園への通知は、内容が異なります文科省は、小中学校での対応をベースに幼稚園について補足しており、厚労省は、乳児期等の対応から年長の子へと考えを広げています。どちらも専門的見地に基づくものです。
 私はどちらの立場も経験していますので、文科省厚労省もその言いたい趣旨や、そう言われている背景は理解できますが、今は学校であり児童福祉施設である認定こども園がたくさんあります。その園はどうしたらよいのでしょうか。

4.まとめ

 国は、こども家庭庁に、文科省などの他省庁に物申す権限を付与することによって、一元的対応を進める手立てとしようとされています。
 それは、たしかに一定の効果はあると思いますが、こと幼保に関して言うならば、そんな大綱レベルで幼保を合わせにかかっても、それこそ机上の話であり、子どもへのサービスの不公平はそんなレベル感で発生しているのではないことを、国も、それに従って動くことになる自治体も肝に銘じなければなりません。
 何より、自治体は(もしかしたら国もそうかもと疑ってしまいますが)、まず、幼保とは何かをもっと知らなければならない、そこからなのだと知らされます。