自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

平成27年から始まった「子ども・子育て支援新制度」のメリットとは

平成27年度にはじまった「子ども・子育て支援新制度」。

幼稚園でも長時間子どもを保育するような「幼稚園の認定こども園化」が進んだり、保育所より小さな規模の「小規模保育事業所」が増えたりと、待機児童解消に向けた、供給の確保が主目的のように批評されていますが、実際のところどうなのでしょうか。

この記事では、制度設計にたずさわった人間として実感した、この「子ども・子育て支援新制度」のメリットについてまとめています。

1.市町村が「公・私・幼・保」とつながった

新制度で役所がやらねばならないこと、できることは格段に増えました。

また、これまで都道府県の所管であった私立幼稚園を利用する子どもについても、新制度に移ってきた私立幼稚園の利用にあたっては市町村で支給認定をすることとなりました。

加えて、各自治体の首長(市長や町長、村長)とは別に、それぞれの地域の教育委員会が所管している公立の幼稚園の子どもについても、市町村が支給認定をすることになりました。

これで、すでに市町村が所管している公立・私立保育所の保育を加えると、市町村で支給認定事務をしている部署が、地域の「公・私・幼・保」をある程度、一元的に見渡せる素地ができてきたということになります。

これは、戦後これまでの幼稚園教育行政・保育所保育行政上なかったことではないでしょうか。

仮に、これまでは「どこかの誰かが手をさしのべているだろう」として、「うちの所管ではないですね」「うちでは受けられないですね」と、ほかの組織や国や県の電話番号をお伝えして、対応をしてこなかったものがあったとしたら、もうそういう状況ではなくなりつつあるということです。

子どもの権利や教育の平等を考えたとき、さまざまな境遇の家庭・子どもについて、役所は全児童を視野に入れて考えていかなければならない。いや、それが役所にやる気と能力、そして園や地域の協力があれば、できる土台ができつつあるのだといえるのではないでしょうか。  

たとえば、障がいのあるお子さん。たとえば、医療的ケアの必要なお子さん。多額の入園金を支払えない家庭のお子さんなど、それぞれの状況で、その家庭が共働きであったり、親の介護で大変であったり、ひとり親で親族の助けを得られない場合など、そのほかさまざまな家庭の状況があります。それに対して、あなたの地域ではどこで教育を受けさせてくれますか。どこで保育をしてくれますか。

市町村は、もう都道府県や国のせいにできなくなりつつあるのではないでしょうか。

なぜなら、市町村が「支給認定」するからです。

保育が要ると認定しています。教育を受けられると認定しています。

認定する以上、それだけの受け皿を用意しなければなりません。

きちんと『保育所保育指針』や『幼稚園教育要領』を守っている園を用意しなければなりません。

そして、さまざまな「訳ありの家庭」(園への新制度の説明会の際に、園側からこのようなフレーズを使われたこと自体が私はショックでした)でもきちんと受け入れて、親子ともども育ちを根気よく見守ることができる園を用意しなければならないのです。

また、一方で役所は、園の特色を重んじてよく理解して、保護者のニーズにあわせて相談に応じ、公正に情報提供を行う体制も必要であり、これも大変な任務です。

2.市町村の責任が明確化された

以上のようなことから、ボールはすでに国から地方に投げられています。

もはや、公立がどうとか私立がどうとか、社会福祉法人や学校法人がどうで株式会社立ならどうだとかそんな白黒の議論ではなく、「事業計画で計算している受け皿は、さまざまな意味で公共的責任がある」ことを、まず事業計画を策定している役所自身が認識しなければなりません。

財政面、制度面でまだまだ国に改善を要望すべきことは多々ありますが、基本的に国は2分の1、都道府県は4分の1、それぞれ費用を出すから(費用を出すといってももとは国民の税金ですが)、あとは市町村の責任でがんばれというのがこの新制度です。

国の新制度を案内するパンフレットなどには待機児童解消などと並べてほぼ必ず「市町村が実施主体 ~市民に身近な市町村が実施主体です~」とあります。

これは、単に法律を読みくだしただけではありません。

これまでと何かしら違うから国は何度も書いているのです。この言葉の重みを役所は知らねばなりません。

もちろん、国の方針に沿って全国一律で展開していくということは大切なことです。

しかしこれだけ地方自治が進み、最終的な責任を国はとってくれるわけではありません。

もうボールは国から自治体に渡されているのです。

それに、そもそも「教育」も「保育」も、地方は国の仕事を下請けしているわけではありません。

明日の自分たちの地域をどういう方向に向かわせることが、子どもたち、ひいては子どもたちの成長後の社会の幸せにどうつながっていくのか。

役所は真剣に悩んで悩みぬいて施策を練り上げていく取り組みを今後も続けていかなければならないと思います。