自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

「こどもまんなか社会」と「こどもの最善の利益」

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 最近なぜか、宣伝文句に冷めた目でみるようになってます。

 「とろとろ牛すじカレー」と書いてあるのをみると、無意識に「とろとろ」を外して「牛すじカレー」。

 「名物特製チャーシュー麺」も「チャーシュー麺」ですし、「店長入魂肉汁たっぷり餃子」も、まずは「餃子」と理解したあと、注文するかどうか考えるクセがついてしまいました。

 さて、国が令和5年度の早い時期に「こども家庭庁」を創設するというニュースが、年末に流れていました。

 昨年12月21日に「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」が閣議決定されたことを踏んでの報道です。

こども政策の推進に係る作業部会|内閣官房ホームページ

 この基本方針には副題がついていて、「~こどもまんなか社会を目指すこども家庭庁の創設~」とあります。

 私は、今でも、聞こえの良い「フワッと」した文句を使用して政策案を書くと、上司に「もっと具体的に分かる言葉で書くように」と指導されます。

 一方で、国が「こどもまんなか社会」と明記したのは、私の言葉選びの拙さとは別次元の、国としての相当の覚悟を持った言葉に違いありません。

 今回は、書き出し程度になりますが、基本方針を読んで「こどもまんなか社会」から少しふれてみます。

1.「こどもまんなか社会」とは「こどもに関する取組・政策を我が国社会の真ん中に据える」こと

 そもそも、「こどもまんなか社会」とは何か。これについては、先ほど紹介した基本方針に書かれています。

 (文章の途中から)こどもを取り巻く状況は深刻になっており、さらに、コロナ禍がこどもや若者、家庭に負の影響を与えている。今こそ、こども政策を強力に推進し、少子化を食い止めるとともに、一人ひとりのこどもの Well-being を高め、社会の持続的発展を確保できるかの分岐点である。
 常にこどもの最善の利益を第一に考え、こどもに関する取組・政策を我が国社会の真ん中に据えて以下「こどもまんなか社会」という。)、こどもの視点で、こどもを取り巻くあらゆる環境を視野に入れ、こどもの権利を保障し、こどもを誰一人取り残さず、健やかな成長を社会全体で後押しする。そうしたこどもまんなか社会を目指すための新たな司令塔として、こども家庭庁を創設する

出典元:「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」

 また、以下にも出てきます。

 こども政策については、これまで関係府省庁においてそれぞれの所掌に照らして行われてきたが、2.に掲げた基本理念に基づき、こども政策を更に強力に進めていくためには、常にこどもの視点に立ち、こどもの最善の利益を第一に考え、こどもまんなか社会の実現に向けて専一に取り組む独立した行政組織と専任の大臣が司令塔となり、政府が一丸となって取り組む必要がある。当該行政組織は、新規の政策課題に関する検討や制度作りを行うとともに、現在各府省庁の組織や権限が分かれていることによって生じている弊害を解消・是正する組織でなければならない。

出典元:「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」

 「こどもまんなか社会」とは、こどもに関する取組・政策を社会の真ん中に据えることだとしています。

 省庁間でそれぞれの趣旨に基づいて政策を推進している現状の中、それぞれ子どものことを思っての取り組みではありますが、ともすれば趣旨のズレが対応や取り組みのズレにつながっているとすれば、子どもが関係する事務を同一組織に再編することで、その複雑さが減り、子どもにとって良い方向に向かっていく。

 それは非常に大事な、急ぐべき事項であることがわかります。

2.「こどもの最善の利益」とは「子どもに関することが決められ、行われる時は、『その子どもにとって最もよいことは何か』を第一に考える」こと

 また、さきほど見てきた基本方針には、「こどもまんなか社会」の言葉の前に「こどもの最善の利益を第一に考え」とあります。

 これは「子どもの権利条約」の一般原則の一つです。

・子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと)
 子どもに関することが決められ、行われる時は、「その子どもにとって最もよいことは何か」を第一に考えます。

(出典元:子どもの権利条約 | ユニセフについて | 日本ユニセフ協会

 子どもの最善の利益とは、「その子どもにとって最もよいことは何か」を第一に考えることとされています。

 他には、平成30年に厚生労働省がまとめている「保育所保育指針解説」に、以下の文章があります。

 「子どもの最善の利益」については、平成元年に国際連合が採択し、平成6年に日本政府が批准した児童の権利に関する条約(通称「子どもの権利条約」)の第3条第1項に定められている。子どもの権利を象徴する言葉として国際社会等でも広く浸透しており、保護者を含む大人の利益が優先されることへの牽制や、子どもの人権を尊重することの重要性を表している。

(出典元:「保育所保育指針解説」厚生労働省

 これまで、国も自治体もたくさんの子育て支援や教育の取り組みをしてきたことは間違いありません。

 ただ、「子どもがもっとも大事(真ん中)」ということと「子どもに関する取り組みがもっとも大事(真ん中)」ということは、似てはいますが、まったく違う帰結を生む可能性をはらんでいるようにも感じます。

 「子どもに関する取り組みが最優先事項である」ことはそのとおりですが(というか、「いまさら感」すらありますが・・・)、「子どもの利益が最優先事項である」ということはもっと大事なのではないでしょうか。

 

 先ほど紹介したユニセフの文章をもう一度読んでみますと、「子どもの最善の利益とは、「その」子どもにとって最もよいことは何かを第一に考える」とあります。

 「子どもを取り巻く社会全体にとってよいことを考えて取り組む」のではありません。「その」子どもなのです。いわゆるケースワークなのです。

3.まとめ

 「社会で子どもは大事ではない」と胸を張る人はあまりいらっしゃらないでしょうから、「子どもに関する取り組みを真ん中にする」だけなら、総論はおおかた賛成だと思います。その推進を主張する人にも何の痛みもないでしょう。みんな賛同し、推進する人を賞賛してくれると思います。

 一方で「全体最適」という大人の言い訳で片付けず、一人ひとりに寄り添った子ども施策を「建前でなく」進めるようとすることは、大人同士の軋轢も生じ、生半可な気持ちではできません。

 また、だからこそ児童発達や児童福祉、教育面の専門的知識も必要です。

 

 最近は殊にコロナ禍も直撃して、もともと大変だった子育て状況が大変なことになっており、親も子も、誰にもぶつけようもない苛立ちやストレスを抱えて、それでも結局は抱えきれずに誰かにぶつけ、負のスパイラルに陥っている話があちこちで聞かれます。

 そのぶつける誰かは、配偶者であったり、学校園であったりするのがよく聞く話なわけですが、親子の場合ももちろんあるわけで、つらい状況です。

 私が言う立場でもないですが、子どもが1歳なら親も親としてまだ1歳なわけですから、すぐにまっとうな親になれる人は、ある意味すごい人なのだと思います。

 今の課題に応えるこども家庭庁やそれを受けた自治体の取り組みにしていかないといけないと思います。

 

 今回の記事は、はじめにフワッとしたものはだめだと自分で言いながら、結局は抽象的な話になってしまいました。

 またどこかの機会で、もう少し具体的にふれていきたいと思います。

 

 ここまでお読みいただきありがとうございました。(^^)/