自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

公教育のイロハをふりかえる

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 前回の記事では、学校より先に子どもがいて、その子どもの学習権があって学校が存在するという話をしました。

kobe-kosodate.hatenablog.com

 今回は、ちょっと教科書的な話になりますが、「公教育」「学校」「義務教育」といったワードが何を指しているのか、自分の頭の整理を兼ねて、みていきたいと思います。

1.公教育

(1)学校の設置者

 これまでも、生涯学ぶかまえが、発達段階に応じた体系立てられた学びの環境や援助によって育まれ、主体的に生きる力につながる視点を見てきました。

 公として子どもたちにそれらを育む環境を保障しようとするものが、学校教育という制度です。

 学校は公立・私立ともに公共の性質を持ちます。

 公教育という言葉を公立学校の教育に限定して使われることもありますが、一般的には、公立学校も私立学校も、公教育の実施主体とされています。

 学校を設置できるものは、国、自治体、学校法人に限られていますが(学校教育法第2条)、当面の間、幼稚園はそれら以外の宗教法人や個人等も設置できます。(学校教育法附則第6条)

 学校法人等が学校を設置するときや、市町村が高校、特別支援学校の高等部を設置するときなどは、都道府県の認可が必要です。

 認可とは、質の確保された運営が継続的に可能だと認めることと言えます。 

 「認可」については、以下の記事も参考にしていただければと思います。

kobe-kosodate.hatenablog.com

 私立学校は、『私立学校法』という法律に基づきます。

 私立学校は、私人が寄附した財産などによって設立・運営されることを原則とするものです。私財をなげうって創立者の「建学の精神」に基づいて「独自の校風」を築いてきたという特性に根ざして、所轄庁(公)による規制ができるだけ制限された法制度とされています。

 参考に私立幼稚園について、私立保育所(園)との制度比較をしながら以下の記事でもふれています。

kobe-kosodate.hatenablog.com

(2)学校・教育施設の種類

 学校・教育施設等の種類については、文部科学省「諸外国の教育統計」に学校系統図が掲載されています。

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              (グレー部分は義務教育)

(注)

1.*印は専攻科を示す。

2.高等学校、中等教育学校後期課程、大学、短期大学、特別支援学校高等部には修業年限1年以上の別科を置くことができる。

3.幼保連携型認定こども園は、学校かつ児童福祉施設であり0~2歳児も入園することができる。

4.専修学校の一般課程と各種学校については年齢や入学資格を一律に定めていない。

(出典元:文部科学省「諸外国の教育統計」令和3(2021)年版)

 法に定める学校では、学校教育法に定める学校として、幼稚園(幼稚園型認定こども園も幼稚園の一類型)、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高等専門学校があり、これらは、同法第1条に列記されているため、「1条校」と言われます。

 他には、「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」(いわゆる「認定こども園法」)で定められた幼保連携型認定こども園も法律で定められた「学校」です。

 平成27年度開始の子ども・子育て支援新制度により、幼保連携型認定こども園が学校でもあり児童福祉施設でもあると位置付けられたことで、学校=1条校では無くなりました。

就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律

第2条

7 この法律において「幼保連携型認定こども園」とは、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとしての満三歳以上の子どもに対する教育並びに保育を必要とする子どもに対する保育を一体的に行い、これらの子どもの健やかな成長が図られるよう適当な環境を与えて、その心身の発達を助長するとともに、保護者に対する子育ての支援を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設置される施設をいう。
8 この法律において「教育」とは、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第六条第一項に規定する法律に定める学校(第九条において単に「学校」という。)において行われる教育をいう

 そのほか、学校教育法、教育施設として専修学校が(同法第124条)、また、学校教育に類する教育を行うものとして各種学校について(同法第134条)規定されています。

 なお、保育所保育所認定こども園保育所の一類型)についても、「保育所保育指針」に「幼児教育を行う施設として共有すべき事項」が書かれており、教育的施設としての位置付けがなされています

(3)中立性

 教育学者で兵庫教育大学学長の加治佐哲也氏は、「公の性質」を有する「法律に定める学校」について、次のように述べています。

 公の性質とは公共的性格ということであり、公の性質をもつ学校とは、特定階層の国民や一部地域の住民ではなく、国民全体あるいは住民全体に役立つ教育を平等にほどこす学校の意味である。(河野和清編著『新しい教育行政学ミネルヴァ書房

 中立性について、教育基本法第14条には、第1項に「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」との前提を置きつつ、第2項に「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」としています。

 なお、続く第15条には、第1項において「宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない」と示した上で、第2項で「国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない」とし、国公立学校における特定宗教の立場に立つ宗教教育を禁止しています。

2.義務教育

(1)就学義務、実施義務、無償

 公教育のうち、普通教育(職業的・専門的でない一般的・基礎的な教育)を保障しようとするものが義務教育制度です。

日本国憲法 第26条

2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

 憲法の「法律の定めるところ」を受けて、教育基本法には次のように書かれています。

教育基本法 第5条

1 国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。

2 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。

3 国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。

4 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。

 ここで「無償」とされているのは、国民(父母など)が、その保護する子女(子どもたち)に教育を受けさせる義務を負っているだけではなく、国・社会もその責任を負っているということです。

 義務として、具体的に保護者には、いわゆる小・中・義務教育学校・特別支援学校小中学部の就学義務が課せられています(学校教育法第17条)。

 また、地方自治体には、親がわが子を就学させる学校を設置する義務を課しています。具体的には、小学校と中学校については市町村に(学校教育法第38条)、特別支援学校については都道府県に(第80条)課されています。

 無償について、判例では「憲法のこの義務教育無償規定は、授業料不徴収の意味であり、教科書、学用品等の教育に必要な一切の費用をまでを無償にすべく定められたものではない」(最高裁1964年2月26日判決)と解釈され、憲法上の無償の範囲は授業料に限定しつつ、1962年に「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」が制定され、同年から教科書についても無償給与されています

 そのほか、家庭の所得によっては、就学援助制度が設けられるなどしています。

(2)フリースクール

 一方、普通教育を受けさせる義務=義務教育学校への就学義務がある中で、その枠組みでは教育を受けられない、また、その教育を望まない子ども、保護者、教育者は、別の場での教育を望む現状があります。

 そのニーズに応えようとしているのが、いわゆるフリースクールなどとよばれる団体や施設です。

 文部科学省も、これまでさまざまな変遷を経ながら、2017年の学習指導要領解説総則編において、「不登校生徒については、個々の状況に応じた必要な支援を行うことが必要であり、登校という結果のみを目標とするのではなく、生徒や保護者の意思を十分に尊重しつつ、生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある。」としています。

 ある時代につくられた教育制度はその時代の様々な制約のもとにつくられ、それゆえいつの時代もその制度の枠組みではおさまらない人々がいます。その人々の教育を受ける権利を保障するためには新しい制度を考えねばなりません。(中略)

 新たな教育の理念と教育行政の支えにより新しく外延を広げた教育制度は、子どもの教育の機会を広げていきました。今後も様々な人々の教育機会は、新たな理念と教育行政の支えを受けた新たな教育制度によって保障されていくことになるでしょう。

(『アクティベート教育学05 教育制度を支える教育行政』ミネルヴァ書房

3.見方によっては、親権は「権利にあらざる権利」

 ここまで見てきました教育の義務は、教育を受ける・学習する権利の擁護のために設けられているものであり、子どもの権利の目線から存在するものです。

 民法第820条には「親権を行うものは、子の監護および教育をする権利を有し、義務を負う。」と規定されていますが、こうした観点も踏まえ、「親権の権利性とは、義務を第一次的に、優先的に履行する権利であり、その意味では、権利にあらざる権利」(堀尾輝久「教育入門」)だと言われています。

 

 今回は、教育行政の中で、公教育の基本的なところを簡単にまとめさせていただきました。

 

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました(*^^*)