自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

幼児教育・保育の無償化を知る

 平成31(2019)年1月の施政方針演説で、当時の安倍首相は、幼児教育・保育の無償化を「小学校・中学校九年間の普通教育無償化以来、実に70年ぶりの大改革である」と紹介しました。

 この記事では、幼児教育・保育の無償化を含めた保育料のルールについてまとめています。

1.子どものための教育・保育給付

 子ども・子育て支援新制度になって登場し、かつ、園の大部分が適用されるのが「子どものための教育・保育給付」の制度です。この「給付」という制度を知ることが、保育料のルールを知る大前提になります。

 「給付」とは平たい言葉でいうと「与える」ということです。

 現金やモノを与えることを「給付」といいます。

 「子どものための教育・保育給付」は、園※に通園するのに必要な経費の一部を、国・県・市が保護者の代わりに現金を「給付」して補てんします。

保育所・幼稚園(のうち新制度の園)・認定こども園・地域型保育事業所

 ここでいう「必要な経費」とは、一般の方が想像される「保育料」を指すのではありません。

 子ども一人ひとりが教育・保育を受けるのに月々かかる必要な経費のすべてです。

 おおざっぱに申し上げれば、先生の給料や教材費、園舎の維持管理費、光熱費などの費用を入園している子どもの人数で割ると、子ども1人あたりの必要経費が計算されます(「公定価格」といいます)。

 なお、小さい子どもほど1人の保育士が目配りできる子どもの人数が限られますので、人件費を考えると、0歳児の方が、5歳児より費用が高くなります。

 たとえば、

〇平均的な大きさとして90人定員の保育園を考えて、

〇国の考える必要経費は、物価の差を考えて地域によって変わるので、例えば神戸市で考えてみると、

おおよそ子ども1人あたり

0歳児:毎月19万円

1~2歳児:毎月12万円

3歳児:毎月6万円

4~5歳児:毎月5万円

の費用がかかります。

 また、さきほど神戸市の90人定員の保育園で、0歳児1人あたり月々19万円の運営費用だと国が見積もっていることを紹介しましたが、東京都の真ん中で小規模な人数の園で保育すれば、月々約25万円となっています。

 一方、地方の物価の低い地域で、大きな園舎で多人数の子どもを一度に保育すれば、スケールメリット(大変おおざっぱに言えば、大きな園でも小さな園でも園長先生は1人ですから、大きな園ほど、園長先生のお給料を人数で割ると、子ども1人あたりの費用は安くなるのです)もはたらいて月々15万円とされています。

2.保護者が払う保育料(利用者負担額)以外の部分は、国民みんなの税金で

 15万円にしろ25万円にしろ、毎月この金額を保護者が負担することは、ふつうの家庭では不可能です。

 そこで、新制度の園には、その経費の一部分を、保護者からではなく、直接市町村から園に支払う(「給付費」といいます)ことで補てんします。

 補てんといっても、もとは国民の税金ですが、おおむね国:県:市が2:1:1の割合で負担します。

 保護者は、残りの費用(家庭の所得などに応じて、支払いが可能だと役所があらかじめ定めた額=「利用者負担額」といいます)のみを支払えばよいという制度になっています。

 そして、この「利用者負担額」について、3歳以上はだいたい無償になったというのが、この「幼児教育・保育の無償化」です。 

3.幼児教育・保育の無償化

 「幼児教育・保育の無償化」は、令和元(2019)年10月に始まりました。

 おおむね3歳(いわゆる年少クラス)から5歳(年長クラス)までの幼稚園・保育所認定こども園などを利用する子どもの保育料が無償になるものです。
 幼稚園は、朝から昼すぎまでの正規の保育時間について無償(従来制度の幼稚園では月25,700円まで無償)です。

 保育所では、夕方まで保育している時間すべて(延長保育は除きます)について無償です。
 こうなると、幼稚園に通わせている方が損をした気分になりますので、幼稚園についても、共働き家庭やひとり親家庭など、保育が必要な子どもの預かり保育は、月11,300円まで無償です。
 また、保育所に入れずに待機児童になっている家庭にとっては、認可外保育施設にやむなく預け、さらに無償化の恩恵も受けられないとなると、踏んだり蹴ったりですので、認可外保育施設などに預ける場合も、保育が必要な要件があれば、月37,000円まで無償になりました。
 なお、通園送迎費や給食費、行事費などについては無償化の対象から外れていますので、保護者が別途負担します。
 そのほか、0歳クラスから2歳クラスまでの子どもについては、住民税が非課税の家庭について、保育が必要な要件があれば、無償化の対象になっています。
無償化の対象になっていない0歳から2歳クラスの保育所認定こども園、地域型保育事業所の保育料は、家庭の収入によってランク分けされて決められています。

 もともと国と県と市町村で費用を負担しあうために設定されている「国基準の保育料表」があり、それをもとに、市町村が保育料を決めています。

(以上の制度概要は、制度開始当初のものです。)

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4.まとめ

 子育て世代の家計の負担軽減は大事な視点には違いありませんが、なんでもコスパ重視の時代、「長時間預けないと損」だと広まって、保育サービスの濫用(らんよう)につながらないかが懸念されています。
 親が子どもをどう育てたいか、子どもが小さいころは家でみたいのか、預けたいのか、フラットな価値判断を奪ってしまわないかということが危惧されています。
 また、待機児童がある中で無償化を開始したことにより、認可外保育施設も無償化の対象としたことはやむを得ないにしろ、児童福祉法第24条には、役所は認可施設である保育所認定こども園、地域型保育事業所によって、保育が必要な子どもの保育を実施・確保しなければならないとされています。

 ですので、無償化と後先ができたにせよ、役所は、認可施設による待機児童解消を、より一層急がなければならなくなったと言えると思います。