自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

預けて働いているのに収入増にならない・・・子育てのための時間を、単にお金を稼ぐために削ることがないような仕組みが必要だ

子どもが小さい時期ぐらいは、ずっとそばにいて愛情を注いであげたいと願う保護者であっても、乳児期から預けないわけにはいかない家庭もあります。

収入の少ない家庭も増加しています。

また、男性(父親)は職場でキャリア形成していくのに、女性(母親)は子どもをみておけというのは理不尽な話です。将来も見すえて、今、必要とされているときに働きたいという気持ちは自然なものです。

また、自営業の方など、育児休業をとれる状況ではない方もあるでしょう。そうした状況で、乳幼児の時期からの保育がますます必要になっていることは事実です。

この記事では、そうした中でなかなか皆がみんな満足を得られていない現状や制度課題についてとりあげています。

1.子どもを預けて働いてもそんなに収入は増えていない

やむを得ず保育所に預けて働かなければならない家庭は増えているものの、保育所に預けて働いている家庭でも、共働きの片方はパート等で健康保険や税金で配偶者の扶養家族になれる範囲で働いている家庭が、少なからずあるということが言われています。

岡田尊司氏は「子育てのための時間を、お金を稼ぐために削ることがないような仕組み」が必要として、次のようにも述べています。

保育所などを建設し、それを維持管理した場合、東京都では、0歳児の場合、1人当たり月額40万~50万円の維持費がかかるという現実がある。そこまで費用をかけて、子どもの愛着形成や発達にダメージを与えているとしたら、何という報われない出費をしていることか。それならば、そのお金の半分でも保育手当として母親に給付し、せめて0歳児の間は、子育てに専念してもらったほうがいいように思える。

そこまで犠牲を払って働き、どれだけ給与を手にしているかと言えば、多くのケースは扶養者から外れないように年収103万円以内に抑えるため、月額は7~8万円だという。そこから、保育料として2~3万円程度を納めるのであるから、手元に残るのは5万~6万円ということになる。それならば、0歳の間だけでも、月額5万円の保育手当を出せば、無理してまで働く必要がなくなる母親は少なくないだろう。

(『愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち』角川選書

子どものこれからの教育費、習い事の費用もばかにならないからと、「子どものため」就労して、二度と帰ってこない「育児の時間」をのがし、後でしっぺ返しがきたときには遅いのではないか。子どもにも親にも、また受け入れる園やお金を出す国にとっても、もっと費用対効果の良い施策ができるのではないかということです。

2.保育が必要な時間だけ利用できる制度

保育園や認定こども園に入園するときに必要な「保育認定」。

これは、1日あたり11時間(標準時間認定)や8時間(短時間認定)の範囲で「保育が必要な範囲で」保育園や認定こども園を利用できるとなっています。

「11時間分お金を払ったのだから11時間使えて当然」という制度ではありません。

事実、特に乳児期の愛着形成において、親など特定の大人との関わりの時間は何よりも大切なものです。また、大きくなってからは、家庭に加え、地域との関わり合いもかけがえのないものになってくるでしょう。

さきほどの岡田尊司氏の著書から再び引用すると、

働くためにやむを得ず保育所を利用している人がいる一方、母親が家事や自分の自由時間を確保するために、必要以上に保育所を利用しているというケースもある。週3日しか働いていないのに、週4日、5日預けてしまうという場合もある。しかし、思春期になって問題が表面化し、後から取り戻そうとしても大変な困難を伴う。幼いうちに手を抜かずに関わる努力をした方が、はるかに容易であることだけは知ってほしい。

(『愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち』角川選書

私が土曜日出勤したときに一本の電話。苦情です。「久々にパチンコに行きたいから子どもを保育所に預けにいったら断られた。どういうことじゃ!」というお叱りでした。

「保育が必要な範囲で」保育を行うものとなっているのは、保護者がお家におられる時間帯は、「お父さんお母さん、お疲れでもお家でのお子さんとの時間をぜひ大切にしてください」ということです。

親も、仮にどんなに気楽な職場の人があったとしても、知らずしらず気をつかっていて、会社帰りに飲み屋に寄って一杯飲んだときや、帰宅して風呂の湯船に浸かったとき、自然と「フ~」と肩の力が抜けてため息がでるように、子どもこそ、仲良しの保育士さんとずっといるとしても、やはり我が家ではありませんから、子どもなりに気をつかっています。

もちろん保護者の一日の行動すべてを園が把握しているわけではありませんので、制度上、親の良識にゆだねられているところでもあります。

3.過度なサービス依存を招くのか

大学教授で国の「子ども・子育て会議」で新制度設計に尽力した柏女霊峰氏も「保育の必要性の認定により利用できる保育時間の上限は設定され、上限まで利用したとしても保育料は変わらない。このことが、保育サービスの濫用を招く危惧は否定できない」と指摘し、次のように述べています。

今後、少子化に伴う保育サービスの供給過剰と相まって、子育ての過度なサービス依存が進むことも想定され、「子育てはだれがどこまで行うのか」の議論は、いずれ本格的な議論を要するテーマとなるであろう。

(『子ども・子育て支援制度を読み解く その全体像と今後の課題』誠信書房

親と社会の子育ての境界線は、今後の課題の一つとして残されていることを提示しています。

以下も、関連した記事になりますので、ご参照ください。

kobe-kosodate.hatenablog.com