自治体職員が書く“子育て支援・教育行政”

行政窓口で待機児童の家庭のお話をうかがったり、制度設計に奔走している者にしかわからないところを伝えたい、という思いで書いています。子どもの幸せ・親の幸せに幼児教育・保育制度はどう寄与していけるのか、一つひとつ制度を深掘りしていきます。

学校の組織が役所にわかりづらいところ

 私の好きな万城目学さんの本に「鹿男あをによし」(幻冬舎文庫)があります。

 この本に、大学の研究室を追われた主人公が、奈良の女子高に赴任し、非常に苦労する始めのあたりで、

 それぞれがそれぞれのやり方でおれを心配してくれる。されど、他の教師の指導内容に踏みこむことは非常にデリケートな問題を孕むので、誰もが外側からおれをのぞきこむばかりである。藤原君ですら、境界線の手前でかりんとうの瓶を脇に佇んでいる。きっと皆、おれから話し始めるときを待っているのだろう。だるまやかりんとうは、いつでも話を聞く用意があるというサインなのだろう。

(出典元:万城目学鹿男あをによし幻冬舎文庫

というくだりがあります。

 私を含めた役所の人間が、学校と一緒に教育行政をよい方向にもっていこうとするときには、お互いの理解が欠かせませんが、とり挙げた「鹿男あをによし」の文章にみえる「教授の自由」の概念を含み、学校の組織や教師の立場、意識についてはなかなか分かっていないことを反省します。

 

 以前の記事で、役所(自治体)で教育行政を行うところとして、教育委員会についてふれました。

kobe-kosodate.hatenablog.com

 今回はその続きです。

 教育委員会と学校の関係と、学校の組織的なところをみていきます。(またもや一般の方には退屈な話かもしれません。。。ご了承ください。)

1.教育委員会事務局

 教育委員会には、その事務を行う職員の集まりがあり、それを「教育委員会事務局」といいます。教育委員会事務局は、教育委員会の内部組織です。

 ちょうど首長(市長など)の手足(補助機関)である職員が、首長の名前で仕事をするように、教育委員会事務局職員は教育委員会や教育長の名前で仕事をします。

 また、学校などをしっかりサポートし、指導できるよう、事務局に指導主事などがいます。

2.学校

 教育委員会が管理し、責任を負っているものに学校や公民館などの教育機関があります。

 教育機関の中でも、子供たちの教育にとってきわめて重要な学校は、教育の実践が行われる場であり、教育委員会やその事務局の取組・施策は、紙や資料の上ではなく、学校現場でこそ具現化されなくてはなりません。

 学校の種類については、次の記事で簡単にふれていますので、そちらもみていただければと思います。

kobe-kosodate.hatenablog.com

 

 学校には、校長がおかれます。

 校長は校務をつかさどり、学校の所属職員を監督します。

 市役所にはさまざまな出先機関や事業所とよべるものがありますが、学校教育法などの法令にもとづき、学校内のさまざまな権限と責任が、学校の長である校長にあり、学校現場の実情に応じて、校長が責任をもって対応するようになっていることが、学校の大きな特徴です。

 たとえば、学校内の人事や仕事の分担(「校務分掌」)は校長が定めることになっていますし、地域の実情や学校の児童生徒の状況に応じて、子供たちに行う教育課程を編成することも校長が行うことになっています。

 

【図】教育委員会と校長の権限

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3.学校が鍋蓋(なべぶた)組織だと言われること

 学校は、どのような組織で運営しているのでしょうか。

 役所などの人間は、組織というと、責任の所在を明確にするものとして上下関係がはっきりした以下のようなピラミッド型の組織をイメージします。

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(出典元:文部科学省 マネジメント研修カリキュラム等開発会議(H17.2月発行)「学校組織マネジメント研修 ~すべての教職員のために~(モデル・カリキュラム)」より)

 

 そのような目線で学校の組織図を描くと、(いろいろなパターンがありますが)例として以下のような図になります。

 

【図】ある小学校の教職員をピラミッド組織として書いた例

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 親は学校と教師に教育を信託しており、教師はその信託に基づいて、各学級や子どもたちの状況に合わせ、また、教師の創意工夫で授業をしていきます。

 学年世話係や学年主任は、それら教師の学年内の相談・調整役や情報共有などを担っています。

 

【図】ある中学校の教職員をピラミッド組織として書いた例

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 一般的に中学校では、(小学校でも少しずつ広がっていますが)教科ごとに担任をしていますので、学級担任や学年主任は、教科担任をしながら、この図にあるようなクラス担任や学年全体をみる役割を担っています。

 このように見ますと、校長・教頭がぽつんと上にある以外は横並びで、たしかに鍋のフタのようにみえます。学校が鍋蓋(なべぶた)組織だと言われることがよくわかります。

4.学校はマトリックス組織 

 学校が鍋蓋(なべぶた)組織だと言われるのは、別の観点もあります。

 学校では校務分掌として仕事・役割の分担がなされますが、一例として、教職員は、以下のような部や委員会に属してその校務にあたっています。

 

(ある中学校での部や委員会の例)

 ※部を一般的に置かない校種もある。

 ※委員会はもっと多岐にわたっているが省略している。

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 あくまで一般的な話ですが、ピラミッド型組織のように、組織の上位者と下位者を結ぶ線に沿って仕事が降りてきたり、成果が上がっていったりするというよりも、学校では、教職員個々人に役割が複数分担され、その役割ごとの取りまとめ役もバラバラの教師が担うため、私(教師)の仕事の進捗はあの上司がすべて細かく把握しているということにはなりません。

 ですので、学校の組織を理解するには、ピラミッド型の絵に落とし込むよりも、以下の図のほうが的確に示すことができているように思います。

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(出典元:文部科学省 マネジメント研修カリキュラム等開発会議(H17.2月発行)「学校組織マネジメント研修 ~すべての教職員のために~(モデル・カリキュラム)」より)

 学校では、仕事が学年・教科・行事や取組などの要素で、網目状に調整が必要なため、「あの学級担任の仕事の状況は、全部あの学年主任がわかっていて・・」というピラミッド組織は難しいのだろうと思います。

 一方で、個々の教師の責任感と、ミドルリーダー(中堅の立場の方)が課題認識をもって組織を活性化させることにより、マトリックス組織は非常に機動的に動く側面があるように思います。

5.まとめ

 私は区役所や支所・出張所で、住民票や戸籍、マイナンバーなどの窓口や事務処理に従事していたことがありますが、その時には、えらくもない立場の私にすら、その私の指示を受ける立場の職員が20人以上いました。ですので、鍋蓋組織ということだけで言うと、別に学校の専売特許でもない気がします。

 ですので、学校の組織が役所の職員にとって分かりづらいのは、鍋蓋組織だからというよりも、役所の人間がよく知るピラミッド組織ではなく、どちらかというとマトリックス組織だからだということではないでしょうか。

 

 ここまで読んでいただきありがとうございました。(^^)/