子育て論で話題になる「3歳児神話」とは
子育て支援に関するサービスやサポートをどうしていくかが話題になるとき、よく問題提起されるのが、
「早くから他者に子どもを預けることが、子どもの発達にとってどのような影響を及ぼすか?」
という点です。
さまざまなご意見や論調があり、専門的な見地は「餅は餅屋」の言葉どおり、専門家の先生方におゆずりするよりほかありませんが、「幼稚園の教育」と「保育所の保育」のどちらも所管する立場になった役所の人間として、この記事でふれたいと思います。
1.3歳児神話
「3歳児神話」というものがあります。
「子どもは3歳までは、常時家庭において母親の手で育てないと、子どものその後の成長に悪影響を及ぼす」
(『平成10(1998)年 厚生白書』)
というものです。
この『厚生白書』には、「3歳児神話には、少なくとも合理的な根拠は認められない」と書かれ、賛否両論の議論を呼びました。
親は「預けたい」あるいは「預けなければならない」。しかし、それは「子どもの幸せ」なのか。親のニーズと、子どもの将来にわたる必要な保育サポートとはどう考えればよいのでしょうか。
2.「一緒に買い物や本を読む機会など『家庭における育児環境』が強く関連し、『保育時間の長さ』は関連していなかった」とする研究報告も
現に保護者にも、その子育て観として、4歳からよりも3歳から、3歳からよりも2歳から集団保育を経験させてやりたい、それが子どもの成長によいという考えをお持ちの方もあります。
平成16(2004)年に出された厚生労働省の補助を受けて実施された研究では、筑波大学の安梅勅江氏が『夜間に及ぶ長時間保育に関する5年間追跡実証研究 ―3年後の発達への影響―』と題した報告書で、「3年後の子どもの発達には、「家庭における育児環境」(一緒に買い物に行く機会や本を読む機会を確保するなど)が強く関連し、『保育時間の長さ』は関連していなかった」と断定しておられます。
3.愛着形成
一方、精神科医で長く医療少年院に勤務された岡田尊司氏は、愛着形成を重視した著書を数多く出しておられますが、その中で以下のように述べています。
愛着とは、子どもと親との間に結ばれる絆である。だが、この場合の親とは遺伝的な親とは限らない。むしろ、育ての親(養育者)との間に生まれる絆だと言える。いくら血がつながっていても、その子を育てなければ、愛着は生まれない。子どもにとってもそうであるし、親にとってもそうである。愛着とは相互的な現象なのである。つまり愛着とは、後天的に獲得されるものなのである。いくら五体満足で、遺伝的には何の欠陥ももっていなくても、養育者にちゃんと育ててもらえなければ、愛着は育まれない。
(『愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち』角川選書)
私が区役所に就いたばかりのころ、窓口で保育所入所の時期の相談をされたお母さんは、1歳のころの人見知りが始まる前に早めに保育所に預けた方が送迎で泣きじゃくられることもないので「ならし保育」がしやすいし、早めに預けてしまいたい、というようなことをおっしゃいました。
しかし、それは確かにそうなんだろうけれども、それはまだ子と親の間に愛着形成が熟していない状況だということを現わしているのではないか、と考えこまざるを得なかったことを覚えています。
国の『幼保連携型認定こども園 教育・保育要領解説』には、子どもがおおむね6か月から1歳3か月未満の時期において、「6か月頃には身近な人の顔が分かり、あやしてもらうと喜んだり、愛情を込めて受容的にかかわる大人とのやり取りを盛んに楽しんだりする。そして、前期に芽生えた特定の大人との愛着関係がさらに強まり、この絆をよりどころとして、徐々に周囲の大人に働き掛けていく。この頃には、特定の大人との愛着関係が育まれている現れとして、初めて会った人や知らない人に対して泣くなど人見知りをするようになる」と書かれています。
3.まとめ
さまざまな研究報告や考え方がありますが、実際に保育施設等に子どもを託して働かなければならない親の立場は切実です。
以下の記事も参考にしていただければと思います。